俺が必ずこの女を殺す
「俺な…、お前のこと殺すつもりだったんだ」

「えっ……?」

急に打ち明けられた事実に小さく声を上げてしまう。

私を…?殺す……??

びっくりしてベッド脇の手すりをギュッ、と握る。

「総長の…偉い人の指示でお前を……、殺そうとしてて、だから最初の頃、彼氏、って嘘ついたんだ」

「そうなの……」

「あぁ」

何度も「ごめんな」って謝る柚季は泣いていた。

私も全てを聞いて、なんて言えばいいんだろう、って考えていた。

だけど……頭に真っ先にフッ、と浮かぶのは『よかった』で何より、柚季との記憶を私は何一つ忘れてなかったんだ、って事実がじんわりと胸に溶け込んできて、とても嬉しかった。

「大丈夫だよ!」

あの日。
階段から落ちて、目を覚ますとそこは病院だった。全ての記憶を失って不安でいっぱいだった私の手を、ぷにょぷにょしてたのは柚季だった。

この人、誰だろう、って思ったけど、繋がれた手は私の手よりもずっと大きくて、暖かくてなんか優しい手で。すごく心がポカポカしたのを昨日の事のように覚えている。

まだ何も描かれていない真っ白なキャンパスに、柚季という‪”‬彼氏‪”‬が描かれていって。

気付いたら私の‪”‬はじめて‪”‬は全部全部柚季だった。
< 220 / 230 >

この作品をシェア

pagetop