破壊
破壊
 教壇の前に、悪目立ちしがちな生徒でもある谷坂(たにざか)が立っている。彼はにやにやと何かを企むような笑みを浮かべ、周囲を見回していた。クラスメートは友達との会話に夢中になっており、谷坂に不躾な視線を投げられても彼に注目する人はほとんどいなかった。それでも谷坂は、へらへらと笑っていた。

 休み時間、誰と話をするでもなく席に座っている俺は、何をするつもりなのだろうと、教壇の前に立つ谷坂を眺める。普段からふざけてばかりの生徒だ。きっと碌でもないことを考えているに違いない。

 無意識のうちに谷坂を下に見てしまっていると、順に生徒を見ていた彼の瞳がゆっくりと俺を捉えた。あ、と微かに声が漏れる。刹那、ゾクゾクと嫌な予感が背中を走り、その理由を考えるよりも先に、俺はすっくと席を立っていた。

 ここにいてはいけない。谷坂の視界に入ってはいけない。谷坂の声を聞いてはいけない。漠然と、そう思った。

 挙動不審にならないように、自然な動作を装って教室を出ようとした時、パチン、と手を叩くような乾いた音が響いた。騒がしかった教室が静かになり、音の出所に皆が目を向ける。ビク、と肩を揺らしてしまった俺もまた、視線を投げてしまった。進んでいた足が、止まる。

「Subの人、"Kneel(お座り)"」

 ピキ、と鼓膜が不快な音を立てた。ビリ、と脳髄に電気が走った。

 最悪、と理性が訴える。それを嘲笑うかのように、従え、と本能が打ち負かす。膝の力が抜け、膝が床につき、目線が一気に低くなった。最悪だ。最悪なのに、抗えない。難なく従える内容だから、抗えない。簡単なものだからこそ、逆らうことができない。
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