破壊
「霧崎くん、殺ってくれるよね。殺ってくれなきゃ、俺が霧崎くんを殺しちゃう」

 そっと首に手をかけられる。ギュッと緩く絞められ、呼吸がしづらくなった。苦しい。苦しい。いくら苦しくても、支配する手と、命を握る手が、俺を捕らえて離さない。苦しいのに心地良いなんて、おかしい。

 俺の首を軽く絞める鈴原が何を考えているのか分からなかった。それでも確かに、本気だと思った。谷坂を殺らなければ自分が殺られる。鈴原は人を殺せる。

「霧崎に何言ったか知らねぇけど、首絞めて強制的に従わせようとしてんの? 上手にやれば、って言ってたくせにできてねぇじゃん」

 クラスメートがクラスメートの首をクラスメートの前で絞めるという行為を見ても、慌てることなく挑発をし続ける谷坂は、やっぱお前は頭のネジが普通より何本も足りないんだな、と鼻で嗤って馬鹿にする。その他大勢の聴衆のような人たちが焦ったようにざわざわし始めても、谷坂も、鈴原も、手を引こうとしなかった。俺の首は、絞められたままだった。

 髪を撫でながら俺の首を絞め、感情の読めない目で俺を凝視する鈴原は、従ってくれないなら殺しちゃうよ、と谷坂の挑発を一切無視して、俺の顔を覗き込むように小首を傾げた。俺に人を殺させるのを撤回する様子はない。徐々に気管が狭くなるような感覚がする。息が、できない。抵抗も、できない。首を縦に振らなければ、死ぬ。鈴原に、殺される。

「おい、鈴原、もうやめろって。プレイだとてもこんなことしていいわけがない。度が過ぎてる。本当に霧崎が死ぬぞ」
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