破壊
 流石に見兼ねた男子生徒が、緊張した声色でありながらも止めに入り、俺から鈴原を引き離そうとしてくれた。しかし、緩慢な動作で視線を上げた鈴原と目が合うと、その生徒はヒュッと喉を鳴らし、凍りついたように動かなくなってしまう。こちらから微かに見えた鈴原の表情は、恐怖を感じるほどの無だった。首から手は離れない。

「そうだね。このままだと死んじゃうね。もしそうなったとしても、それは従わなかった霧崎くんのせいだよ。俺はちゃんと忠告したから。従わないと殺しちゃうよ、って」

 躊躇もない。恐怖もない。動揺もない。至って冷静で、正気なのだ。鈴原は。これが、通常運転なのだ。俺がこのまま死んだら、死んだで、死んじゃった、で終わりなのだ。そこに後悔も罪悪もない。鈴原にとっては。そうだと悟った。

 頭がくらりとし、意識が飛びそうになる。本気で死んでしまう、殺されてしまうと慄いてしまった俺は、鈴原の腕をゆるゆると掴んで首を縦に振ってしまっていた。それに気づいた鈴原が、よかった、殺ってくれるんだね、と薄く嗤う。

 口元は僅かに上がっていても、目は少しも笑っていない鈴原を見ながら、今一度、俺は頷いた。苦しくて、死にたくなくて、褒められたくて、遂に鈴原に服従する意思を見せてしまった。

 首にかかっていた圧が不意になくなる。堰き止められていた酸素が勢いよく喉を通って肺に送られ、ゲホゲホと激しく咳き込んだ。脈打つ鼓動がやけに近くで聞こえ、それが妨げとなり、しばらくの間周りの声や音を拾うことができなかった。

「じゃあ、改めて、霧崎くん。あそこにいるプライドの高いDomを"Kill(殺して)"」
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