破壊
 機嫌は悪そうだが余裕を見せている谷坂を指差し、今度は俺以外にも聞こえる声量で命令する鈴原。彼の言動にクラスメートは響めき、指を差された谷坂は眉間に皺を寄せた。

 二度も続けて同じコマンドを受け、従うことができなかった一回目よりも威力があるように感じてしまうそれに、俺は心臓をバクバクと大きく跳ねさせながらふらふらと立ち上がって行動で意思を示した。谷坂の方へゆっくりと歩みを進める。

 殺さないと。殺さないと。そうしないと。そうしないと。俺が殺される。でも、谷坂を殺せば、そうすれば、鈴原は俺を褒めてくれる。きっと、褒めてくれる。愛してくれる。俺の中で、何かが壊れていく。判断の基準が、鈴原になっていく。

「は、面白いコマンドだな。Subに俺を殺させるとか。舐められたものだわ。SubがDomに勝てるわけないだろ」

「大事なことを見落としてるね。どんなSubもね、その気になってくれさえすれば、Domの命令には何がなんでも従おうとしてくれる。特に霧崎くんは優秀なSubだから、上手に扱えば殺しも厭わない」

「優秀だろうがなんだろうが、所詮はSubでしかないだろ。Domの俺が別のコマンドで上書きすればそれに従うしかない」

「じゃあ、言ってみてよ。死ねでも殺せでもなんでもいいから言ってみてよ。俺か、君か、霧崎くんはどっちを選ぶだろうね」

 鈴原と谷坂の睨み合い、攻防戦が続く中、俺は鈴原のコマンドに従おうと谷坂に近づき、彼の首を取ろうとした。谷坂と目が合う。彼の余裕は崩れない。反撃できると思っているのだ。Subに殺されるわけがないと思っているのだ。きっと、そうだ。そうに違いない。殺すしかない。鈴原が言っている。鈴原の指示だ。Domの指示だ。逆らえない。
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