龍は千年、桜の花を待ちわびる
夜、夕食をともにしながらそのことを焔さんに話すと、焔さんは嬉しそうに笑った。
「ようやく、お前の良さが分かる人が現れたか…。」
「は…。」
意味が理解できなかった。
憧れてはいたが、それが突然やってくるとこうも困惑するものなのか。
僕は動揺してしまって、あまり上手く寝付けなかった。
翌朝も、僕は表の掃除をしていた。何せ日課なのだ。もう掃除をしないと落ち着かない体になってしまっている。
すると、不意にまた「あの…」と声を掛けられた。
振り返ると、昨日の彼女が居た。
「…お、おはようございます!」
「お、おはようございます…。」
緊張のせいだろうか。顔を真っ赤にして絞り出された挨拶は、静かな朝の街には少し大きな声だった。
僕は焔さんの言葉を思い出して、悟られないよう、でもしっかりと動揺していた。
「あの、昨日は失礼いたしました…!」
「いえ…。供え物、いつもありがとうございます。」
僕は心の中で自分を激励していた。
(僕の方が数百年も長生きなんだ! 動揺を上手く隠して、円滑に…!)
「あの、もしよろしければ少しお話ししませんか?」
僕は近くの長椅子を指して、彼女に声を掛けた。
彼女が赤面したまま頷いたのを見て、僕らは隣り合わせに腰掛けた。あまり座面が長くないので、自然と距離が近くなってしまった。
(失敗した…。このままじゃ僕の方が緊張でもたないかもしれない…。)
心の中で未知の経験に途方に暮れていると、彼女は「あの」と口を開いた。
「今、好い方はいらっしゃいますか!?」
勢いのあまり前のめりになった彼女に驚きつつ、その表情や動作から緊張が伝わってきて、こちらまで緊張してしまう。
「焔さんなら、今お付き合いされている方がいますよ。」
「ほ、焔様ではなくて、彩雲様です…!」
「ぼ、僕…?」
本当に僕だった。焔さん目当てじゃなかった。
「いえ…、いません…。」
呆然としながらそう答えると、彼女はホッと胸を撫で下ろした後、スッと姿勢を正した。
「あの、私…彩雲様をお慕いしているんです…。その、お付き合いをしていただくことは…できないでしょうか…。」
顔を真っ赤にして俯きがちに、けれどしっかりと僕の目を見て言う彼女は、とても素敵な女性に見えた。
「えっと、僕もこう見えて鬼で…、だから焔さん同様に不老不死ですが…。」
「存じ上げております!」
「…君の死後、他の女性とまた恋をするかもしれないですよ?」
「恐縮ですが、それも焔様を見て重々承知の上です…!」
ここまで食い下がられてしまうと、僕としては断る理由がない。
かといって、現状彼女を好いているわけでもない。短い彼女の人生を、僕が奪ってしまって良いんだろうか。
そう悩んだ結果、お友達から、ということで落ち着いた。
「ようやく、お前の良さが分かる人が現れたか…。」
「は…。」
意味が理解できなかった。
憧れてはいたが、それが突然やってくるとこうも困惑するものなのか。
僕は動揺してしまって、あまり上手く寝付けなかった。
翌朝も、僕は表の掃除をしていた。何せ日課なのだ。もう掃除をしないと落ち着かない体になってしまっている。
すると、不意にまた「あの…」と声を掛けられた。
振り返ると、昨日の彼女が居た。
「…お、おはようございます!」
「お、おはようございます…。」
緊張のせいだろうか。顔を真っ赤にして絞り出された挨拶は、静かな朝の街には少し大きな声だった。
僕は焔さんの言葉を思い出して、悟られないよう、でもしっかりと動揺していた。
「あの、昨日は失礼いたしました…!」
「いえ…。供え物、いつもありがとうございます。」
僕は心の中で自分を激励していた。
(僕の方が数百年も長生きなんだ! 動揺を上手く隠して、円滑に…!)
「あの、もしよろしければ少しお話ししませんか?」
僕は近くの長椅子を指して、彼女に声を掛けた。
彼女が赤面したまま頷いたのを見て、僕らは隣り合わせに腰掛けた。あまり座面が長くないので、自然と距離が近くなってしまった。
(失敗した…。このままじゃ僕の方が緊張でもたないかもしれない…。)
心の中で未知の経験に途方に暮れていると、彼女は「あの」と口を開いた。
「今、好い方はいらっしゃいますか!?」
勢いのあまり前のめりになった彼女に驚きつつ、その表情や動作から緊張が伝わってきて、こちらまで緊張してしまう。
「焔さんなら、今お付き合いされている方がいますよ。」
「ほ、焔様ではなくて、彩雲様です…!」
「ぼ、僕…?」
本当に僕だった。焔さん目当てじゃなかった。
「いえ…、いません…。」
呆然としながらそう答えると、彼女はホッと胸を撫で下ろした後、スッと姿勢を正した。
「あの、私…彩雲様をお慕いしているんです…。その、お付き合いをしていただくことは…できないでしょうか…。」
顔を真っ赤にして俯きがちに、けれどしっかりと僕の目を見て言う彼女は、とても素敵な女性に見えた。
「えっと、僕もこう見えて鬼で…、だから焔さん同様に不老不死ですが…。」
「存じ上げております!」
「…君の死後、他の女性とまた恋をするかもしれないですよ?」
「恐縮ですが、それも焔様を見て重々承知の上です…!」
ここまで食い下がられてしまうと、僕としては断る理由がない。
かといって、現状彼女を好いているわけでもない。短い彼女の人生を、僕が奪ってしまって良いんだろうか。
そう悩んだ結果、お友達から、ということで落ち着いた。