龍は千年、桜の花を待ちわびる
けれどそのお友達が恋人に変わるのに、そう時間はかからなかった。
彼女は、とても魅力的な人だった。
幸せな日々だった。
「彩雲、最近幸せそうだな。」
「はい。」
穏やかな日々を過ごしていた、ある晩。縁側で庭を眺めながら酒を嗜んでいた時だった。
一瞬、何とも例え難い感覚がした。
「焔さん…!」
「あぁ…。」
僕たちは立ち上がって首都の方角へと目を向けた。何も見えはしない。けれど、感じた。
「桜琳が…召喚された…。」
「はい…。」
一瞬、秀明様の霊力も感じた。それは召喚の術式に、秀明様の霊力が組み込まれていたためだろう。
(時が…来た…。)
僕たちは座り直すと、互いに酒を注ぎ合った。そして乾杯をすると、一気にそれを煽った。
「焔さんは…怨念が成仏したらどうなるんでしょう…。」
「恐らくただの人間になるだろうと…秀明には聞いている。」
「そうですか…。」
僕がどうなるかは、焔さんに遠き昔に話してある。
「桜琳と皇憐が迎えに来たら、俺は宮殿に行く。」
「はい。」
「彩雲は…どうする…?」
「僕は…。」
行きたい。行けば確実に秀明様にお会いできる。けれど同時に、確実に秀明様の目の前で…。
そこまで考えて、僕はそっと目を閉じた。
「僕は、ここに残ります。」
「…そうか。」
桜琳様と皇憐様にも、衝撃的な光景を目の当たりにさせてしまう。
それは、本望ではない。
(あとは…。)
彼女にも、話をつけておかなければ。
翌朝には空さんから焔さんのもとに『風の知らせ』が届いた。時が、迫っている。
「どうされたんですか? 彩雲様。」
あれ以来、彼女が想いを告げてくれた長椅子に腰掛けて、毎朝話しをすることも日課の1つとなっていた。
いつもと違う僕の様子を察した彼女は、心配そうに僕に問うた。
「…僕との恋人関係を、解消してほしいんです。」
そう言うと、彼女はハッと息を飲んだ。
「な、なぜですか!? 私が何か…!」
「違うんです。違うんですよ…。」
動揺する彼女の手にそっと手を重ねると、彼女を落ち着かせるように首を横に振った。
「もうすぐ、怨念の成仏が成されます。」
「怨…念…?」
「遠い遠い、昔の話です。」
僕は怨念との戦いや、僕が鬼になった経緯、そして秀明様に言われたことを包み隠さず、彼女に話した。
「もうすぐ怨念の成仏が成されます。そうしたら僕は…、この世から消滅します。」
そう言うと、彼女は呆然とした。そしてそのまま、ボタボタと大粒の涙を零した。
「それなら一層、お別れなどしたくありません…。彩雲様のお側に居られる限り…お側に居させてください…!」
「…ありがとうございます。辛かったら、いつでも僕を捨ててくださいね。」
「捨てたりなんて、できません…!」
そう泣く彼女を抱き寄せ、不謹慎な幸せを噛み締めていた。
彼女は、とても魅力的な人だった。
幸せな日々だった。
「彩雲、最近幸せそうだな。」
「はい。」
穏やかな日々を過ごしていた、ある晩。縁側で庭を眺めながら酒を嗜んでいた時だった。
一瞬、何とも例え難い感覚がした。
「焔さん…!」
「あぁ…。」
僕たちは立ち上がって首都の方角へと目を向けた。何も見えはしない。けれど、感じた。
「桜琳が…召喚された…。」
「はい…。」
一瞬、秀明様の霊力も感じた。それは召喚の術式に、秀明様の霊力が組み込まれていたためだろう。
(時が…来た…。)
僕たちは座り直すと、互いに酒を注ぎ合った。そして乾杯をすると、一気にそれを煽った。
「焔さんは…怨念が成仏したらどうなるんでしょう…。」
「恐らくただの人間になるだろうと…秀明には聞いている。」
「そうですか…。」
僕がどうなるかは、焔さんに遠き昔に話してある。
「桜琳と皇憐が迎えに来たら、俺は宮殿に行く。」
「はい。」
「彩雲は…どうする…?」
「僕は…。」
行きたい。行けば確実に秀明様にお会いできる。けれど同時に、確実に秀明様の目の前で…。
そこまで考えて、僕はそっと目を閉じた。
「僕は、ここに残ります。」
「…そうか。」
桜琳様と皇憐様にも、衝撃的な光景を目の当たりにさせてしまう。
それは、本望ではない。
(あとは…。)
彼女にも、話をつけておかなければ。
翌朝には空さんから焔さんのもとに『風の知らせ』が届いた。時が、迫っている。
「どうされたんですか? 彩雲様。」
あれ以来、彼女が想いを告げてくれた長椅子に腰掛けて、毎朝話しをすることも日課の1つとなっていた。
いつもと違う僕の様子を察した彼女は、心配そうに僕に問うた。
「…僕との恋人関係を、解消してほしいんです。」
そう言うと、彼女はハッと息を飲んだ。
「な、なぜですか!? 私が何か…!」
「違うんです。違うんですよ…。」
動揺する彼女の手にそっと手を重ねると、彼女を落ち着かせるように首を横に振った。
「もうすぐ、怨念の成仏が成されます。」
「怨…念…?」
「遠い遠い、昔の話です。」
僕は怨念との戦いや、僕が鬼になった経緯、そして秀明様に言われたことを包み隠さず、彼女に話した。
「もうすぐ怨念の成仏が成されます。そうしたら僕は…、この世から消滅します。」
そう言うと、彼女は呆然とした。そしてそのまま、ボタボタと大粒の涙を零した。
「それなら一層、お別れなどしたくありません…。彩雲様のお側に居られる限り…お側に居させてください…!」
「…ありがとうございます。辛かったら、いつでも僕を捨ててくださいね。」
「捨てたりなんて、できません…!」
そう泣く彼女を抱き寄せ、不謹慎な幸せを噛み締めていた。