龍は千年、桜の花を待ちわびる
外伝その三 : 結びの章
「結ー! こっちこっち!」


秀明に呼ばれてそちらに駆け寄ると、スーツを着てビシッと決めた秀明と彼が居た。

今日は私もドレスアップしている。


「よかったの? 私まで呼んでもらって…。」
「当たり前でしょ、2人には出席してもらわなきゃ!」


そう言うと、秀明はニコニコと笑った。

今日は『皇憐-koren-』が何やらすごい賞を受賞したとのことで、その祝賀パーティーなのだ。


あれから数年が経ち、私と秀明は大学へ進学。そして、卒業を間近に控えていた。


「秀明先生! 登壇の準備を!」


そう担当さんに声を掛けられて、秀明は「行ってくるね」と言って行ってしまった。

取り残された私たちは食べ物や飲み物を軽く楽しみつつ、『皇憐-koren-』の話題で盛り上がっていた。


「まさかアイツにあんな才能があったとはな…。」
「びっくりだよね。」
「あぁ。だがあの漫画のおかげで、いつでも桜和国に帰った気分になれるのはいいもんだな。」


そう懐かしげに笑う彼は、こちらの生活にすっかり馴染んでいた。長かった髪もバッサリ切って、見た目も完全に馴染んでいる。


「そうだね。」


私が楽しみにしていた通り、『皇憐-koren-』は私たちの旅とは異なる方向へと進み、先日無事に完結した。

アニメ、アニメ映画もヒットした。


桜琳としての記憶を取り戻した今となっては、自分たち…特に皇憐の登場シーンが多く、漫画でもアニメでもそれはそれは不思議な気分だった。


「皆…元気かな…。」


時の流れの速さが違う以上、天に召されるタイミングは異なるかもしれない。


けれど秀明の転生の術で分かったが、どの世界で死しても、死後の世界は繋がっている。

いつか、幸せだったと…皆に報告できたらいいななんて、子どもじみたことを考えてしまう。


「元気に決まってる。1000年も気ぃ狂わずに生きてた奴らだ。ケツが決まった分、毎日を大事に生きてるだろ。…俺みてぇにな。」
「…そうだね。」


私は微笑むと、彼の肩に頭を寄せた。


彼に異変が起きたのは、こちらの世界に来てすぐのことだった。アシスタントさんが居ない時間を狙って3人で秀明の作業部屋に集まっていたとき。


「髭が…生えてきた…。」


呆然と言うので、私と秀明は一瞬キョトンとしてしまった。


「髭、生えなかったの…?」
「俺が剃ってんの見たことあったか?」
「そういえば…。」


3人で首を傾げていると、秀明が思い付いたように言った。


「力は使える?」


そう言われて彼が手をかざすも、何も起きない。


「使えねぇ…。」
「…ここでは止めて欲しいんだけど、龍の姿に…戻れそう…?」


彼は床を見つめて少しした後、溜め息を吐いた。


「無理だ。」


私と秀明は顔を見合わせた。


「もしかして…龍じゃなくなった…?」
「人間になったの…?」


当たり前だが、私たちより彼の方が遥かに困惑し、何やら1人格闘していた。


そして結論として、彼は人間になった。

どうやら妖力のもととなるものがこの世界には存在しないらしい。だから彼は今、人間として生活を送っている。

こちらに来た際は20代前半頃の見た目をしていたのだが、そこから見た目も当然変化させることができなくなり、年を取るようになった。
…といっても、年齢的にそこまでしっかり分かる程のものではないが…。
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