龍は千年、桜の花を待ちわびる
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「結! 結!」
声を掛けるも、男の肩に担ぎ上げられた結はグッタリとしたまま応答がない。背中が上下しているのを見るに、息はしている。
先程の布に含まれていたのは睡眠薬の類だろう。即死性の毒でなかったことに安心しつつ、自分の迂闊さを反省した。こいつら、手慣れてる。
「なぁ兄ちゃん。」
結を抱えた男は懐に先程の布を仕舞い込むと、そのまま短刀を取り出した。体格や態度からして、結を抱えた男が親玉だろう。
「俺ら、金や食料には困ってねぇのよ。」
「それで?」
荷物を地面に下ろした俺を見て、周囲の奴らは持っていた武器を構えた。俺への攻撃は無意味だから問題ない。問題は結の方だ、下手に攻撃して怪我でもさせたら…。
「俺らが困ってんのは女と、趣味の相手よ。」
「へぇ? 趣味?」
「こうやって。」
そう言葉を続けながら短刀の切先を結に向けた。
「! 止めろ!」
男は抱えた結の左太腿側面を滑らせるように短刀を動かした。それを見た瞬間、俺の中で何かがプツリと切れた。
出血量からして本当に表面を切っただけのようだが、短刀には血が付いていた。男はそれを器用に舐めとると、下卑た笑みを浮かべた。
「切り刻むのよ。女の悲鳴を楽しみながらなぁ。」
周囲の男たちも共に下卑た笑い声を上げた。次の瞬間、風が吹き荒れ血飛沫が舞った。笑い声は一気に叫び声に変わり、男たちは呻き声を上げながらその場にしゃがみ込んだ。
「は、え?」
動揺する親玉を他所に、親玉のもとへ歩み寄りながら手をかざした。するとまた風が吹き、今度は親玉の右手が短刀と共に地面に落ちた。
「手、手がぁあああ!」
「あぁ、こっちも邪魔だな。」
左腕は肩に担いだ結の膝裏辺りを抑えていた。再び手をかざすと、今度は風が吹いた後左腕が地面に落ちた。
「がああああぁぁぁあぁあああ!!」
騒ぐ親玉を他所に結を奪い返すと、荷物の辺りに座らせ、自分が作り出した惨状に向き直った。
「さてと。」
再び手をかざし、親玉以外の男たちの手足を蔓で縛り上げていく。傷は負わせたが戦意を失う程度のもので、四肢の欠損や致命傷の者はいない。
親玉も蔓で縛り上げつつ、死なれては困るので切断部の少し上に止血用の蔓も巻いてやった。
そして風を使って、空に賊を捕まえておいたので兵を何人か寄越すよう連絡を送った。またその際、親玉は死ぬ可能性があるため急を要することと、医術に明るい者も同行させるよう頼んだ。
俺は後処理を済ませると、一刻も早く結衣の手当てをしようと、荷物と結を抱えた。ここではさすがにまずい、少し離れなければ。
「くっ…化け物が…!!」
親玉が最後に吐き捨てるように言ったのを聞いて、俺は鼻で笑って返した。
「龍だよ。」
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「結! 結!」
声を掛けるも、男の肩に担ぎ上げられた結はグッタリとしたまま応答がない。背中が上下しているのを見るに、息はしている。
先程の布に含まれていたのは睡眠薬の類だろう。即死性の毒でなかったことに安心しつつ、自分の迂闊さを反省した。こいつら、手慣れてる。
「なぁ兄ちゃん。」
結を抱えた男は懐に先程の布を仕舞い込むと、そのまま短刀を取り出した。体格や態度からして、結を抱えた男が親玉だろう。
「俺ら、金や食料には困ってねぇのよ。」
「それで?」
荷物を地面に下ろした俺を見て、周囲の奴らは持っていた武器を構えた。俺への攻撃は無意味だから問題ない。問題は結の方だ、下手に攻撃して怪我でもさせたら…。
「俺らが困ってんのは女と、趣味の相手よ。」
「へぇ? 趣味?」
「こうやって。」
そう言葉を続けながら短刀の切先を結に向けた。
「! 止めろ!」
男は抱えた結の左太腿側面を滑らせるように短刀を動かした。それを見た瞬間、俺の中で何かがプツリと切れた。
出血量からして本当に表面を切っただけのようだが、短刀には血が付いていた。男はそれを器用に舐めとると、下卑た笑みを浮かべた。
「切り刻むのよ。女の悲鳴を楽しみながらなぁ。」
周囲の男たちも共に下卑た笑い声を上げた。次の瞬間、風が吹き荒れ血飛沫が舞った。笑い声は一気に叫び声に変わり、男たちは呻き声を上げながらその場にしゃがみ込んだ。
「は、え?」
動揺する親玉を他所に、親玉のもとへ歩み寄りながら手をかざした。するとまた風が吹き、今度は親玉の右手が短刀と共に地面に落ちた。
「手、手がぁあああ!」
「あぁ、こっちも邪魔だな。」
左腕は肩に担いだ結の膝裏辺りを抑えていた。再び手をかざすと、今度は風が吹いた後左腕が地面に落ちた。
「がああああぁぁぁあぁあああ!!」
騒ぐ親玉を他所に結を奪い返すと、荷物の辺りに座らせ、自分が作り出した惨状に向き直った。
「さてと。」
再び手をかざし、親玉以外の男たちの手足を蔓で縛り上げていく。傷は負わせたが戦意を失う程度のもので、四肢の欠損や致命傷の者はいない。
親玉も蔓で縛り上げつつ、死なれては困るので切断部の少し上に止血用の蔓も巻いてやった。
そして風を使って、空に賊を捕まえておいたので兵を何人か寄越すよう連絡を送った。またその際、親玉は死ぬ可能性があるため急を要することと、医術に明るい者も同行させるよう頼んだ。
俺は後処理を済ませると、一刻も早く結衣の手当てをしようと、荷物と結を抱えた。ここではさすがにまずい、少し離れなければ。
「くっ…化け物が…!!」
親玉が最後に吐き捨てるように言ったのを聞いて、俺は鼻で笑って返した。
「龍だよ。」