龍は千年、桜の花を待ちわびる
処置を終えると、皇憐は再び背を向けて謝った。私はズボンを履きながら苦笑を漏らした。
皇憐なら余裕だろうと油断していたのは私も同じだし、何より私は無力だ。皇憐に守ってもらわなければ、こんなものでは済まなかったに決まってる。それなのに…。
ズボンを履き終えると皇憐に近付き、その背中に頭をくっつけた。
「そんなことないよ。助けてもらって、手当てもしてもらった。賊も倒してくれたんでしょ? ありがとう。」
皇憐が首だけでこちらを振り返る気配がしたが無視した。心臓が馬鹿みたいに高鳴って仕方がない。緊張で手が震えてしまいそうだ。
好きな人にくっつくって、こんな感じなんだ…。そんな風に思ってハッとした。
(好き…?)
私はこの世界に来る前は、推しとして皇憐が好きだった。だけど、一緒に居るうちに…本当に好きになっちゃったの…?
ふと顔を上げると、皇憐と視線がかち合ってしまった。
「あ、えっと、私、お腹空いたなぁ!」
誤魔化すように大袈裟に笑ってそう言うと、皇憐は優しく微笑んだ。
「そうだな、飯にするか!」
「うん!」
食事を終えた後はベッドに腰掛けて、 皇憐が作ってくれた窓からボンヤリと外を眺めて過ごしていた。
鎌倉に穴を開けて、そこから雨やみぞれ、あられが入ってこないよう水で膜を張ってくれたのだ。水底から外を眺めているようで面白くて、飽きずにずっと眺めていられる。
ふと皇憐を振り返ると、皇憐はベッドの上で壁にもたれて眠っていた。改めて見ると、なんて端正な顔。
……恋をするって、こんな感じなのかぁ…。初恋だ…。
(でも…、気付きたく…なかったな…。)
私はこの世界の人間じゃない。そのうち元の世界に帰る。でも元々この世界の人間だったんだし、このままここに…。
…でも、元の世界にも家族や友達…、捨てたくないものが沢山ある。
それにこの世界に残ったところで、皇憐はこのままだとまた封印されてしまう…。そうしたら…また1000年後…?
そんなのもう…どうしたって…2度と会えない…。
「っ……。」
気付けば涙が次から次へと溢れて止まらなかった。
「結…?」
声を押し殺していたのに、私の異変に気が付いた皇憐が慌てて駆け寄って来た。
「どうした…? 怪我が痛いのか…?」
あんな怪我が痛くて泣くわけなんてないのに、過保護な皇憐がまた私を切なくさせる。
私は皇憐に抱き付くと、そのまま声を押し殺して泣いた。
皇憐と一緒に居られなくなる。
そんな日が来ることを分かっていて旅を始めたはずなのに。いつの間に、こんなに側に居たいと思うようになっていたんだろう。
皇憐は泣きじゃくる私を受け止めてくれた。
皇憐の腕に包まれた時、初めて気が付いた。体温がない。鼓動も、匂いも、感じられない。目の前に居るはずなのに…。あぁ…、なんて…遠い存在なんだろう。
私はしばらくそのまま泣いていた。
皇憐なら余裕だろうと油断していたのは私も同じだし、何より私は無力だ。皇憐に守ってもらわなければ、こんなものでは済まなかったに決まってる。それなのに…。
ズボンを履き終えると皇憐に近付き、その背中に頭をくっつけた。
「そんなことないよ。助けてもらって、手当てもしてもらった。賊も倒してくれたんでしょ? ありがとう。」
皇憐が首だけでこちらを振り返る気配がしたが無視した。心臓が馬鹿みたいに高鳴って仕方がない。緊張で手が震えてしまいそうだ。
好きな人にくっつくって、こんな感じなんだ…。そんな風に思ってハッとした。
(好き…?)
私はこの世界に来る前は、推しとして皇憐が好きだった。だけど、一緒に居るうちに…本当に好きになっちゃったの…?
ふと顔を上げると、皇憐と視線がかち合ってしまった。
「あ、えっと、私、お腹空いたなぁ!」
誤魔化すように大袈裟に笑ってそう言うと、皇憐は優しく微笑んだ。
「そうだな、飯にするか!」
「うん!」
食事を終えた後はベッドに腰掛けて、 皇憐が作ってくれた窓からボンヤリと外を眺めて過ごしていた。
鎌倉に穴を開けて、そこから雨やみぞれ、あられが入ってこないよう水で膜を張ってくれたのだ。水底から外を眺めているようで面白くて、飽きずにずっと眺めていられる。
ふと皇憐を振り返ると、皇憐はベッドの上で壁にもたれて眠っていた。改めて見ると、なんて端正な顔。
……恋をするって、こんな感じなのかぁ…。初恋だ…。
(でも…、気付きたく…なかったな…。)
私はこの世界の人間じゃない。そのうち元の世界に帰る。でも元々この世界の人間だったんだし、このままここに…。
…でも、元の世界にも家族や友達…、捨てたくないものが沢山ある。
それにこの世界に残ったところで、皇憐はこのままだとまた封印されてしまう…。そうしたら…また1000年後…?
そんなのもう…どうしたって…2度と会えない…。
「っ……。」
気付けば涙が次から次へと溢れて止まらなかった。
「結…?」
声を押し殺していたのに、私の異変に気が付いた皇憐が慌てて駆け寄って来た。
「どうした…? 怪我が痛いのか…?」
あんな怪我が痛くて泣くわけなんてないのに、過保護な皇憐がまた私を切なくさせる。
私は皇憐に抱き付くと、そのまま声を押し殺して泣いた。
皇憐と一緒に居られなくなる。
そんな日が来ることを分かっていて旅を始めたはずなのに。いつの間に、こんなに側に居たいと思うようになっていたんだろう。
皇憐は泣きじゃくる私を受け止めてくれた。
皇憐の腕に包まれた時、初めて気が付いた。体温がない。鼓動も、匂いも、感じられない。目の前に居るはずなのに…。あぁ…、なんて…遠い存在なんだろう。
私はしばらくそのまま泣いていた。