龍は千年、桜の花を待ちわびる
それから5年が経った。
私と秀明は10歳になっていた。皇憐は…男性であれば見た目年齢を好きに変えられるそうで、5年経っても全く見た目に変化はなかった。
私たちは3人でよく時を過ごすようになっていた。と言っても秀明は皇太子としての勉強量が年々増えており、不在の日も多かった。
だが週に1度、特定の時間は必ず一緒に時を過ごした。そして今日はその特定の時間だ。
「やはり特に食料の物価上昇が著しく、一部の国民はかなり困窮している状況のようです…。」
「その物価の上昇はどこからくるのだ…。気候は例年通りだし、どこかの商人が食料の買い占めでもしておるのか?」
皇帝は大きな溜め息を吐くと、次の報告者の報告を聞き始めた。
私たち3人は、謁見の間の玉座裏にあるスペースで毎週この報告を盗み聞きしていた。中から漏れ聞こえてくる声を外から聞いている状態なので、早々見つかる心配はない。
粗方の報告を聞き終えると、私たちはその場を離れた。秀明はまもなく勉強の時間だったため先に別れ、私と皇憐は蓮池の畔に来ていた。いつの間にか、ここは私たち3人の溜まり場になっていた。
「気候が普段通りなのに、食料の物価の上昇が止まらないなんておかしいわよね。」
そう言う私に、皇憐は首を傾げながら言った。
「この前執務室で記録を見たんだが、収穫量が過去に比べて極端に落ち込んでんだよな。」
「どこの地域か分かる?」
「国中だ。」
「…そんなことってあるのかしら。」
国中の気候が一気に変わっていれば誰もが気が付くし、一部の異常気象だって報告されていないはず。とすれば、原因は気候じゃない。
「……でも、お金と食料があれば目先のことは解決できるのよね。」
「目先のことは、な。」
「よし! 皇憐、城下町へ行きましょう!」
私は自室の荷物をまとめると、皇憐に城下町へ連れて行ってもらった。
基本的には宮殿内で過ごすよう言われているけれど、まだ皇太子の婚約者という立場の私は『皇憐を伴う』という条件付きで宮殿からの外出を許されていた。
「桜琳、何持って来たんだ?」
私の大きな荷物を見て、皇憐は不思議そうに首を傾げた。私は少し困りながら答えた。
「服とか、簪とか、あまり使わない物を…。」
「は!?」
「あ、陛下や皇后様、秀明にいただいた物は持って来てないわよ!」
「桜琳…。」
「私のような人間が持つような物だもの、高く売れるはずだわ。」
そして私の予想通り、質屋に持って行った物は想像以上の高値で売れた。半分を残し、残りの半分のお金で食料を大量に購入した。
「桜琳、まさか…。」
困惑する皇憐に、私は微笑んだ。
「手伝ってもらえると嬉しいわ。」
「お前って奴は…。」
溜め息を吐きながらも、手伝ってくれるのが皇憐だ。私たちはその食料を城下町の外れで配った。
実際に目の当たりにするとひどいものだった。首都だというのに、城から離れたらこんなにも貧困が進んでいただなんて。
私は城に戻ると、質屋で得たお金の残りを料理長に賄賂として渡した。
皇族は毎日豪華な食事をしている。そして必ず大量の残飯が出ることを知っていたのだ。その残飯に使用人は手をつけることができない。
要するに、そのまま処分されるのだ。私は料理長にその残飯を私に回すよう頼み込んだ。代わりに、私が食べるはずの食料を横流しして欲しい、と。
料理長はかなり渋ったが、最後には了承してくれた。地方出身である料理長は地方の食料の状況を知っていたのだろう。そして、私の目論見にも気が付いてくれたのだろう。
私と秀明は10歳になっていた。皇憐は…男性であれば見た目年齢を好きに変えられるそうで、5年経っても全く見た目に変化はなかった。
私たちは3人でよく時を過ごすようになっていた。と言っても秀明は皇太子としての勉強量が年々増えており、不在の日も多かった。
だが週に1度、特定の時間は必ず一緒に時を過ごした。そして今日はその特定の時間だ。
「やはり特に食料の物価上昇が著しく、一部の国民はかなり困窮している状況のようです…。」
「その物価の上昇はどこからくるのだ…。気候は例年通りだし、どこかの商人が食料の買い占めでもしておるのか?」
皇帝は大きな溜め息を吐くと、次の報告者の報告を聞き始めた。
私たち3人は、謁見の間の玉座裏にあるスペースで毎週この報告を盗み聞きしていた。中から漏れ聞こえてくる声を外から聞いている状態なので、早々見つかる心配はない。
粗方の報告を聞き終えると、私たちはその場を離れた。秀明はまもなく勉強の時間だったため先に別れ、私と皇憐は蓮池の畔に来ていた。いつの間にか、ここは私たち3人の溜まり場になっていた。
「気候が普段通りなのに、食料の物価の上昇が止まらないなんておかしいわよね。」
そう言う私に、皇憐は首を傾げながら言った。
「この前執務室で記録を見たんだが、収穫量が過去に比べて極端に落ち込んでんだよな。」
「どこの地域か分かる?」
「国中だ。」
「…そんなことってあるのかしら。」
国中の気候が一気に変わっていれば誰もが気が付くし、一部の異常気象だって報告されていないはず。とすれば、原因は気候じゃない。
「……でも、お金と食料があれば目先のことは解決できるのよね。」
「目先のことは、な。」
「よし! 皇憐、城下町へ行きましょう!」
私は自室の荷物をまとめると、皇憐に城下町へ連れて行ってもらった。
基本的には宮殿内で過ごすよう言われているけれど、まだ皇太子の婚約者という立場の私は『皇憐を伴う』という条件付きで宮殿からの外出を許されていた。
「桜琳、何持って来たんだ?」
私の大きな荷物を見て、皇憐は不思議そうに首を傾げた。私は少し困りながら答えた。
「服とか、簪とか、あまり使わない物を…。」
「は!?」
「あ、陛下や皇后様、秀明にいただいた物は持って来てないわよ!」
「桜琳…。」
「私のような人間が持つような物だもの、高く売れるはずだわ。」
そして私の予想通り、質屋に持って行った物は想像以上の高値で売れた。半分を残し、残りの半分のお金で食料を大量に購入した。
「桜琳、まさか…。」
困惑する皇憐に、私は微笑んだ。
「手伝ってもらえると嬉しいわ。」
「お前って奴は…。」
溜め息を吐きながらも、手伝ってくれるのが皇憐だ。私たちはその食料を城下町の外れで配った。
実際に目の当たりにするとひどいものだった。首都だというのに、城から離れたらこんなにも貧困が進んでいただなんて。
私は城に戻ると、質屋で得たお金の残りを料理長に賄賂として渡した。
皇族は毎日豪華な食事をしている。そして必ず大量の残飯が出ることを知っていたのだ。その残飯に使用人は手をつけることができない。
要するに、そのまま処分されるのだ。私は料理長にその残飯を私に回すよう頼み込んだ。代わりに、私が食べるはずの食料を横流しして欲しい、と。
料理長はかなり渋ったが、最後には了承してくれた。地方出身である料理長は地方の食料の状況を知っていたのだろう。そして、私の目論見にも気が付いてくれたのだろう。