龍は千年、桜の花を待ちわびる
私は皇憐に頼み込んで、順番に各地方都市に食料を運んだ。本来の姿に戻った皇憐にかかれば、各地方都市まで一っ飛び。2時間もあれば着いてしまう。
「ありがとう、皇憐。」
宮殿までの帰り、私は皇憐に乗って上空を飛んでいた。本来の姿の皇憐は、神々しくて美しい。そしてあまりに神秘的で、少し恐ろしい。
「まったく、お前は無茶をする。」
「身分のない今の私にできることなんて、これくらいだもの。」
「先日化粧が濃いババアに馬鹿にされてただろ、いつも同じ服なのねって。」
先日の花見に参加したときのことだ。まさか聞かれていたとは。
質屋で服を売ってしまった私は、他所行きの正装を1着しか持っていなかった。けれど、そういった公の場では毎回異なる服を着るのが慣わしなのだ。
「1つの物を大切にするのも愛着が湧いていいですよって言って差し上げたわ。」
笑って言うと、皇憐も少し笑った。その場で会話を耳にした皇后様と秀明が素敵だと賛同してくれたおかげで、私は恥をかかずに済んだ。
「ところで桜琳、体調悪いだろ。」
「えっ…。」
「体、熱いぞ。」
皇憐に跨る私は急に恥ずかしくなってしまって、片手で口元を隠した。実は朝から熱っぽかった。けれど一刻も早く食料を届けたくて、自分の体調は気にしないようにしていたのだ。
「もう少し頑張れるか?」
「だ、大丈夫!」
「よし、少し飛ばすぞ。」
皇憐のおかげで予定より早めに宮殿に戻って来ることができた。いつもなら桜林で降ろしてくれるのだが、今日は私の部屋の目の前だった。皇憐は人の姿に戻ると、私と抱え上げた。
「こ、皇憐っ…。」
「黙ってろ、熱上がってんじゃねぇか。」
皇憐は私の部屋に入ると、寝台に私を降ろした。
「愛李を呼んでくるから、ちょっと待ってろ。」
そう言って皇憐は部屋を出て行った。愛李は私の侍女だ。年齢は私より少し上くらい。
私はそのまま後ろに倒れると、意識を手放した。自分で思っていたよりも、体が限界だったようだ。
次に目を覚ましたとき、私は寝巻きに着替えて布団に寝かせられていた。きっと愛李がやってくれたんだろう、後でお礼を言わないと…。
そんな風に考えていると、ふと頬に触れるものがあった。
「起きたか?」
「こ、皇憐…?」
皇憐が私の横に寝転がっていた。結婚前の女の部屋にこんな風に出入りするのはルール違反だ。特に、婚約者でもない男が。
「愛李を呼んで戻ってきたら倒れてたから心配した。」
そう言いながら緩やかに私の頬や髪を撫でる。…くすぐったい。それになんだか普段の皇憐と雰囲気が違って、緊張してしまう。
その時月明かりが窓から差し込んで、私たちを丁度照らした。今夜は満月のようだ。
「さてと、安心したことだし、部屋に戻るかな。」
「あ…。」
そう言って上半身を起こした皇憐の服の袖をつい掴んでしまった。
「桜琳…?」
「まだ行かないで…。せめて、私が眠るまで…。」
これは、熱のせいだ。きっと熱で母様が恋しいんだ。そう心の中で、誰に言うでもない言い訳を必死にする。
皇憐は微笑むと、再び寝転んで再び私の頬や髪を撫でた。
「ずっと居る。」
「……うん。」
私はその温もりに安心して眠りに就いた。
「ありがとう、皇憐。」
宮殿までの帰り、私は皇憐に乗って上空を飛んでいた。本来の姿の皇憐は、神々しくて美しい。そしてあまりに神秘的で、少し恐ろしい。
「まったく、お前は無茶をする。」
「身分のない今の私にできることなんて、これくらいだもの。」
「先日化粧が濃いババアに馬鹿にされてただろ、いつも同じ服なのねって。」
先日の花見に参加したときのことだ。まさか聞かれていたとは。
質屋で服を売ってしまった私は、他所行きの正装を1着しか持っていなかった。けれど、そういった公の場では毎回異なる服を着るのが慣わしなのだ。
「1つの物を大切にするのも愛着が湧いていいですよって言って差し上げたわ。」
笑って言うと、皇憐も少し笑った。その場で会話を耳にした皇后様と秀明が素敵だと賛同してくれたおかげで、私は恥をかかずに済んだ。
「ところで桜琳、体調悪いだろ。」
「えっ…。」
「体、熱いぞ。」
皇憐に跨る私は急に恥ずかしくなってしまって、片手で口元を隠した。実は朝から熱っぽかった。けれど一刻も早く食料を届けたくて、自分の体調は気にしないようにしていたのだ。
「もう少し頑張れるか?」
「だ、大丈夫!」
「よし、少し飛ばすぞ。」
皇憐のおかげで予定より早めに宮殿に戻って来ることができた。いつもなら桜林で降ろしてくれるのだが、今日は私の部屋の目の前だった。皇憐は人の姿に戻ると、私と抱え上げた。
「こ、皇憐っ…。」
「黙ってろ、熱上がってんじゃねぇか。」
皇憐は私の部屋に入ると、寝台に私を降ろした。
「愛李を呼んでくるから、ちょっと待ってろ。」
そう言って皇憐は部屋を出て行った。愛李は私の侍女だ。年齢は私より少し上くらい。
私はそのまま後ろに倒れると、意識を手放した。自分で思っていたよりも、体が限界だったようだ。
次に目を覚ましたとき、私は寝巻きに着替えて布団に寝かせられていた。きっと愛李がやってくれたんだろう、後でお礼を言わないと…。
そんな風に考えていると、ふと頬に触れるものがあった。
「起きたか?」
「こ、皇憐…?」
皇憐が私の横に寝転がっていた。結婚前の女の部屋にこんな風に出入りするのはルール違反だ。特に、婚約者でもない男が。
「愛李を呼んで戻ってきたら倒れてたから心配した。」
そう言いながら緩やかに私の頬や髪を撫でる。…くすぐったい。それになんだか普段の皇憐と雰囲気が違って、緊張してしまう。
その時月明かりが窓から差し込んで、私たちを丁度照らした。今夜は満月のようだ。
「さてと、安心したことだし、部屋に戻るかな。」
「あ…。」
そう言って上半身を起こした皇憐の服の袖をつい掴んでしまった。
「桜琳…?」
「まだ行かないで…。せめて、私が眠るまで…。」
これは、熱のせいだ。きっと熱で母様が恋しいんだ。そう心の中で、誰に言うでもない言い訳を必死にする。
皇憐は微笑むと、再び寝転んで再び私の頬や髪を撫でた。
「ずっと居る。」
「……うん。」
私はその温もりに安心して眠りに就いた。