龍は千年、桜の花を待ちわびる
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「さすがに10歳の女の子に手を出すのは良くないと思うんだ、皇憐。」


秀明の部屋で本を読んでいると、唐突に秀明が言った。

俺は驚きのあまり勢い良く秀明を振り返ったが、秀明は作業を止めることなく淡々と手を動かし続けていた。


「この前桜琳が熱を出したとき、僕も心配で様子を見に行ったんだけど、あれは言い逃れ難しいんじゃないかなぁ。」


言い逃れるつもりなど最初からない。けれど、誰にも見られていないと思っていたがゆえに、それに関して誰かにどうこう言われることもないと思っていたのだ。


(面倒臭ぇな…、どうすっかな…。)


俺はガシガシと頭を掻くと、溜め息を1つ吐いた。そんな俺を他所に、秀明は淡々と続けた。


「せめて桜琳が15とかになってからの方がいいと思うな。皇憐にはもう年齢の概念はないのかもしれないけど、僕たち人間にとって、年齢の概念は大切だから。」
「は? ……秀明?」
「僕はね、桜琳のことがとっても好きなんだ。」


やっと作業を止めた秀明は、真っ直ぐに俺を見た。皇太子だからだろうか、10歳とは思えない気迫を持ち合わせた子どもだ。


「それが恋愛感情なのかは正直分からない。もし桜琳が皇憐を選ぶのなら、それでいいと思ってる。正直貴族のお嬢さんは他にもいるからね。」
「…お前、何が言いたいんだ?」
「……僕はね、皇憐も大好きなんだ。だから、皇憐にやっと大切な人ができたなら、手放さないで欲しいんだ。ただ、時期は考えて欲しいなって。」
「……。」
「好きな人には、幸せでいてほしいものでしょう?」


そう穏やかに笑う秀明に、俺は苦笑を漏らした。正直言って、秀明は現皇帝よりも優秀だ。人としても、恐らく他の部分も。始皇帝である祖父譲りだろうか。
といっても、勿論現皇帝が悪いわけじゃない。戦乱の中で生まれ育ち、思うような教育を受けられなかったのだ。無理もない。


「クソ餓鬼。」


笑ってそう言うと、秀明は肩をすくめて見せた。かと思うと、一瞬で表情を引き締めた。
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