龍は千年、桜の花を待ちわびる
「ところで、食料の物価高騰の件なんだけど。」
「あぁ。」
「皇憐なら薄々気付いていると思うんだけど、“怨念”が原因なんじゃないかと思うんだ。」
そう言った秀明に驚きを隠せなかった。宮殿から出ないコイツが、気が付いたのか。
俺は基本的に人間のことには干渉しない。協力を要請されたり、気が向けば協力するが…。よっぽどひどい状況になるまでは様子を見ようと思っていたのだ。
「…恐らくそうだ。」
そう答えると、秀明は「やっぱり」と呟いて、先程まで作業していた紙を俺に見せてきた。それは桜和国の地図だった。
「この印がついている箇所が、かつて争いがあった場所。争いがなかった場所の方が少ないんだけど…、ここの土は血を吸っている。」
「あぁ。上空を飛んでるだけでもプンプン臭う。」
実際に血の臭いがするわけではない。だが邪念や怨念、そういったものが悪臭を放つかのようにまとわりついてくるのだ。
「やっぱり。桜琳と皇憐が帰って来た後、いつも変な気配がすると思ったら…。」
「秀明…お前…。」
「『霊力』があることは自覚してたんだ。こんな風に役立つとは知らなかったけどね。」
顔を上げてニコッと笑うと、秀明は視線を地図に戻した。
霊力を持つ人間はかなり希少だ。それを自覚したり、扱える人間はもっと希少だ。
「皇憐でも怨念の対処法って分からないの?」
「さすがにな…。」
「そっか…。じゃあ一先ず目先の問題に順番に対応しつつ、怨念の対処法を探っていくしかないか…。」
「そうなるな…。」
「とりあえず、僕から父上に進言してみるよ。桜琳だけが負担を背負うのは良くないからね。」
そう言って笑った。本当に周りをよく見ている。これで10歳とは、末恐ろしい限りだ。きっとコイツは将来、立派な皇帝になるだろう。
俺はそれを想像して笑った。
「秀明、お前も無茶すんじゃねぇぞ。」
「うん、ありがとう。」
その後、秀明の進言のおかげで皇族はあえて食事以外の贅沢品を購入し、商人が金を得られるようにした。
また、食事は以前よりも質素なものに、量も毎回必ず食べ切れる量になった。元々食糧庫にあった残りの食材は、国民に解放された。
桜琳はというと、残飯を食べていたことが皇帝にバレて大目玉をくらい、罰として量は通常だったが、豪華な食事を1週間食べさせられた。甘味が多かったところをみるに、罰という名の詫びと褒美だろう。
俺は定位置の桜の下でうとうとしながら、未来に思いを馳せていた。
あんな優秀な皇太子と婚約者がいるんだ。きっとアイツらの治世は素晴らしいものとなるだろう。
「皇憐、ここに居たのね!」
「なんだ…、何かあったか?」
桜琳は眠気眼の俺の隣に座ると、肩に頭を乗せてきた。
「ううん、何もないわ。」
そう言うと、満足そうに笑って目を閉じた。
「……。」
俺は将来、コイツを諦められるのだろうか。秀明との結婚を、心から祝ってやれるのだろうか。
そんな風に考えながら、俺もそっと目を閉じた。
「あぁ。」
「皇憐なら薄々気付いていると思うんだけど、“怨念”が原因なんじゃないかと思うんだ。」
そう言った秀明に驚きを隠せなかった。宮殿から出ないコイツが、気が付いたのか。
俺は基本的に人間のことには干渉しない。協力を要請されたり、気が向けば協力するが…。よっぽどひどい状況になるまでは様子を見ようと思っていたのだ。
「…恐らくそうだ。」
そう答えると、秀明は「やっぱり」と呟いて、先程まで作業していた紙を俺に見せてきた。それは桜和国の地図だった。
「この印がついている箇所が、かつて争いがあった場所。争いがなかった場所の方が少ないんだけど…、ここの土は血を吸っている。」
「あぁ。上空を飛んでるだけでもプンプン臭う。」
実際に血の臭いがするわけではない。だが邪念や怨念、そういったものが悪臭を放つかのようにまとわりついてくるのだ。
「やっぱり。桜琳と皇憐が帰って来た後、いつも変な気配がすると思ったら…。」
「秀明…お前…。」
「『霊力』があることは自覚してたんだ。こんな風に役立つとは知らなかったけどね。」
顔を上げてニコッと笑うと、秀明は視線を地図に戻した。
霊力を持つ人間はかなり希少だ。それを自覚したり、扱える人間はもっと希少だ。
「皇憐でも怨念の対処法って分からないの?」
「さすがにな…。」
「そっか…。じゃあ一先ず目先の問題に順番に対応しつつ、怨念の対処法を探っていくしかないか…。」
「そうなるな…。」
「とりあえず、僕から父上に進言してみるよ。桜琳だけが負担を背負うのは良くないからね。」
そう言って笑った。本当に周りをよく見ている。これで10歳とは、末恐ろしい限りだ。きっとコイツは将来、立派な皇帝になるだろう。
俺はそれを想像して笑った。
「秀明、お前も無茶すんじゃねぇぞ。」
「うん、ありがとう。」
その後、秀明の進言のおかげで皇族はあえて食事以外の贅沢品を購入し、商人が金を得られるようにした。
また、食事は以前よりも質素なものに、量も毎回必ず食べ切れる量になった。元々食糧庫にあった残りの食材は、国民に解放された。
桜琳はというと、残飯を食べていたことが皇帝にバレて大目玉をくらい、罰として量は通常だったが、豪華な食事を1週間食べさせられた。甘味が多かったところをみるに、罰という名の詫びと褒美だろう。
俺は定位置の桜の下でうとうとしながら、未来に思いを馳せていた。
あんな優秀な皇太子と婚約者がいるんだ。きっとアイツらの治世は素晴らしいものとなるだろう。
「皇憐、ここに居たのね!」
「なんだ…、何かあったか?」
桜琳は眠気眼の俺の隣に座ると、肩に頭を乗せてきた。
「ううん、何もないわ。」
そう言うと、満足そうに笑って目を閉じた。
「……。」
俺は将来、コイツを諦められるのだろうか。秀明との結婚を、心から祝ってやれるのだろうか。
そんな風に考えながら、俺もそっと目を閉じた。