龍は千年、桜の花を待ちわびる
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それから数年が経った。

怨念による食料の物価高騰は止まるところを知らず、ついには餓死者が出るようになり始めた。その頃から、国の様子がおかしくなり始めた。


「またか…。」


皇帝は大きな溜め息を吐いた。私たちは相変わらず、謁見の間の玉座の裏に隠れて毎週の報告を盗み聞きしていた。


「はい…。各地から餓死以外の死傷者が出ておりまして…。何でも、突然凶暴化して襲いかかってきた、と…。」
「人も獣もなのだろう?」
「はい…。目撃者によると、皆同様に顔に不思議な『紋』が出ていた、と…。」
「紋…。」


私たちは今週分の盗み聞きを終えると、蓮池の畔へとやって来た。最近秀明は勉強時間を変更したらしく、盗み聞き後はこうして3人でいることが多くなった。


「…やっぱり、秀明が言っていた怨念なのかしら。」
「きっと人に取り憑くものが出てきたんだろうね…。」


このままではまずい。けれど、霊力のない私にはどうにも…。


「私、1度城下へ行って様子を見て来るわ。」


そう言うと、秀明は頷いた。


「僕は宮殿からは出られないし、お願いできるかな。皇憐も、ついて行ってくれる? 君なら妖力があるから、そう意味でも行ってくれると助かるんだけど…。」
「分かった。」


私と皇憐は質素めな服に着替えると、城下へ繰り出した。心なしか、昔よりも雰囲気が悪い。


「桜琳、俺から離れるなよ。」
「うん…。」
「最近、地方からも首都に人が集まって来てやがる。……地方で生活出来ねぇ奴が、首都で生活出来るわけねぇのにな…。」


皇憐は私の手を握ると、険しい表情で周りを見渡した。確かに、浮浪者のような見た目の人も沢山いる。

首都は地方よりも物価が高い。けれど、やはり職や食べ物は首都に集まるので、そこに希望をかけて首都に皆集まって来るのだろう。


「お金で解決できるならよかったのに…。」


お金は食べられない。ない食料を突然作り出すことなんてできない。私は、なんて無力なんだろう。

そうして街を歩くうち、街の外れの方まで来たとき、皇憐が足を止めた。


「皇憐…?」
「怨念…? いや…。なんだ、この気配…。」


私には何も分からないが、何かを感じたようだ。手を引かれるままそちらに歩いて行くと、子どもの声が聞こえてきた。

私は、声の発信源を見つけて息を飲んだ。
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