龍は千年、桜の花を待ちわびる
「出て行け、化け物!」
子どもが子ども相手に石や泥を投げつけていたのだ。
「止めなさい、何をしているの!」
気付けば皇憐の手を振り解いて、虐められていた子どもの前に躍り出ていた。
「何でだよ、そいつ化け物だぞ! 母親だって殺したし、父親には捨てられたんだ! 」
「!?」
私は虐められていた子どもを振り返った。腕に見慣れない痣がある。それ以外は、普通の子どもだ。
(まさか…。)
この『痣』が、報告にあった紋…?
「分かった分かった、俺らが追い出しとくからお前らは帰れ。」
皇憐が子どもたちを睨みつけて言うと、子どもたちは少し怯んだ様子を見せた。そして、すごすごとその場を後にした。
「…大丈夫?」
虐められていた子に向き直って目線を合わせると、思い切り睨まれた。
「俺を、追い出すのか。」
「あれはただの口上よ。あなた、そんなに悪いことを何かしたの?」
微笑んでそう言うと、その子は俯いて首を振った。持っていた手拭いでそっと泥を拭ってやると、その子は恐る恐る顔を上げた。
「おい、小僧。」
突然、皇憐が低い声でその子に話しかけた。そして手を掴み、服を捲り上げた。
私はまた息を飲んでしまった。
手だけだと思っていた痣は、腕全体にあったのだ。見るに、両腕だ。
「これはな、怨念に憑かれると出るもんだ。」
「皇憐…!」
「お前、自我は保ってるか。」
その子は恐る恐る頷いた。目には薄っすら涙が滲んでいた。
私たちはその子を宮殿へ連れて帰ることに決めた。どうせあそこに居ても、また虐められるだけだ。
宮殿に戻るとまず湯浴みをさせ、愛李に頼んで傷の手当てをしてもらった。その間に秀明を呼び事情を説明した。
「あなた、名は?」
すっかり綺麗になったその子に訊ねると、小さく首を横に振った。名がない、ということだろうか。
「じゃあ、私がつけてもいいかしら。」
そう訊ねると、その子は小さく頷いた。
さて、どうしようか。最初は薄汚れていてあまり気が付かなかったが、綺麗な黄色い髪をしていた。瞳は山吹。紋の色も黄色だった。
「…うん、『金言』! どうかしら? 『金のように価値の高い言葉』という意味の言葉なのだけど、あなたも皆にとってそんな人になれるように。」
金言は返事をする代わりに、すごく嬉しそうに顔を輝かせていた。
「決まりね!」
「お前…命名の才能が…。」
皇憐はすごく微妙な顔をしていて、秀明は苦笑していた。私は金言を抱き上げた。5歳くらいだろうか、ガリガリに痩せてしまっている。
「さて、。じゃあ名が決まったところで、金言。君にお願いがあるんだ。」
秀明は金言の顔を覗き込むと、優しく笑いかけた。しかし、金言は怖がって私にしがみついてきた。きっと、人間不信になってしまっているんだろう。私は金言を抱く腕にそっと力を入れた。
「実は今、国が大変な状態なんだ。普通の人じゃどうにも出来なくてね。そこで、君の力を借りたいんだ。」
「お、俺の力…?」
やっと言葉を発した金言は、不安そうに私を見上げた。私は微笑みながらその髪を撫でた。
「このお兄ちゃんたちもね、あなたと一緒で普通じゃないの。」
「そうなの…?」
「そうなんだ。国を助けるためにいろいろと調べてるんだけど、僕たちだけじゃ難しくて…。だから、君の力を貸してもらえるとすごく助かるなぁって思ったんだけど…。どうかな。」
「……お姉ちゃんが一緒に居てくれるなら、いいよ。」
こうして霊力を持つ秀明と、龍の皇憐、後に『鬼』と呼ばれることになる金言によって怨念への対処方法を探すこととなった。
子どもが子ども相手に石や泥を投げつけていたのだ。
「止めなさい、何をしているの!」
気付けば皇憐の手を振り解いて、虐められていた子どもの前に躍り出ていた。
「何でだよ、そいつ化け物だぞ! 母親だって殺したし、父親には捨てられたんだ! 」
「!?」
私は虐められていた子どもを振り返った。腕に見慣れない痣がある。それ以外は、普通の子どもだ。
(まさか…。)
この『痣』が、報告にあった紋…?
「分かった分かった、俺らが追い出しとくからお前らは帰れ。」
皇憐が子どもたちを睨みつけて言うと、子どもたちは少し怯んだ様子を見せた。そして、すごすごとその場を後にした。
「…大丈夫?」
虐められていた子に向き直って目線を合わせると、思い切り睨まれた。
「俺を、追い出すのか。」
「あれはただの口上よ。あなた、そんなに悪いことを何かしたの?」
微笑んでそう言うと、その子は俯いて首を振った。持っていた手拭いでそっと泥を拭ってやると、その子は恐る恐る顔を上げた。
「おい、小僧。」
突然、皇憐が低い声でその子に話しかけた。そして手を掴み、服を捲り上げた。
私はまた息を飲んでしまった。
手だけだと思っていた痣は、腕全体にあったのだ。見るに、両腕だ。
「これはな、怨念に憑かれると出るもんだ。」
「皇憐…!」
「お前、自我は保ってるか。」
その子は恐る恐る頷いた。目には薄っすら涙が滲んでいた。
私たちはその子を宮殿へ連れて帰ることに決めた。どうせあそこに居ても、また虐められるだけだ。
宮殿に戻るとまず湯浴みをさせ、愛李に頼んで傷の手当てをしてもらった。その間に秀明を呼び事情を説明した。
「あなた、名は?」
すっかり綺麗になったその子に訊ねると、小さく首を横に振った。名がない、ということだろうか。
「じゃあ、私がつけてもいいかしら。」
そう訊ねると、その子は小さく頷いた。
さて、どうしようか。最初は薄汚れていてあまり気が付かなかったが、綺麗な黄色い髪をしていた。瞳は山吹。紋の色も黄色だった。
「…うん、『金言』! どうかしら? 『金のように価値の高い言葉』という意味の言葉なのだけど、あなたも皆にとってそんな人になれるように。」
金言は返事をする代わりに、すごく嬉しそうに顔を輝かせていた。
「決まりね!」
「お前…命名の才能が…。」
皇憐はすごく微妙な顔をしていて、秀明は苦笑していた。私は金言を抱き上げた。5歳くらいだろうか、ガリガリに痩せてしまっている。
「さて、。じゃあ名が決まったところで、金言。君にお願いがあるんだ。」
秀明は金言の顔を覗き込むと、優しく笑いかけた。しかし、金言は怖がって私にしがみついてきた。きっと、人間不信になってしまっているんだろう。私は金言を抱く腕にそっと力を入れた。
「実は今、国が大変な状態なんだ。普通の人じゃどうにも出来なくてね。そこで、君の力を借りたいんだ。」
「お、俺の力…?」
やっと言葉を発した金言は、不安そうに私を見上げた。私は微笑みながらその髪を撫でた。
「このお兄ちゃんたちもね、あなたと一緒で普通じゃないの。」
「そうなの…?」
「そうなんだ。国を助けるためにいろいろと調べてるんだけど、僕たちだけじゃ難しくて…。だから、君の力を貸してもらえるとすごく助かるなぁって思ったんだけど…。どうかな。」
「……お姉ちゃんが一緒に居てくれるなら、いいよ。」
こうして霊力を持つ秀明と、龍の皇憐、後に『鬼』と呼ばれることになる金言によって怨念への対処方法を探すこととなった。