龍は千年、桜の花を待ちわびる
「皇帝…、召喚できた…。」


空は私に話しかけたのと同じ調子で皇帝に話しかけた。

この空、見た目は幼女だが『皇憐-koren-』によれば、皇帝・皇后に平気でタメ口を使える程の地位を持っているのだ。


「おぉ、そうか!」


皇帝は身を乗り出して私を見た。私はびっくりして、思わず体が収まるはずもない空の後ろに引っ込んだ。


「皇帝…、結、びっくりしてる…。」
「おぉ、すまん。」


申し訳なさそうに笑うと、皇帝は椅子に座り直した。隣の皇后は優しく笑っていた。どうやら2人の関係は良好なようだ。


「結、というのがあなたの名ですか?」


突然皇后に話しかけられて、肩がビクッと跳ねた。


「は、はい!」


め、めちゃくちゃ綺麗な声…! 艶やかで色気がある…。皇帝も皇后も、お年は召しているようだけれど、純粋にすごく綺麗。皇后はさらに声まで綺麗だなんて…。


「では、これで『皇族の悲願』達成、というわけですね。」
「うむ、そうだな。」


皇帝と皇后はにこにこと顔を見合わせながら、満足そうに頷き合っていた。


「結、ようこそ桜和国へ。」
「あ、ありがとうございます…!」


一国の皇帝・皇后からこんな風に歓迎されることなんて、一生でもう2度とないだろうなぁ…。


「さて。早速だが、結。そなたを召喚した理由について説明したいのだが…。空から何か聞いているかね?」
「いえ…。」


そう答えると、部屋の左手の方から吹き出すような声が聞こえた。


「空にそんな説明は無理だろ。」


声がした方を振り返ると、部屋の左端にある太い柱に寄りかかる男性がいた。


「何者だ!」


一気にどよめき立つ皇帝・皇后や兵を他所に、私と空はその男性をただ見つめていた。


「…皇…憐…?」


最初に言葉を発したのは空だった。決して大きな声ではなかったが、全員の動きがピタリと止んだ。


「皇憐…だと…?」


信じられないと再び騒つく兵を他所に、その男性は空と私の元へ歩いて来ると、空の頭に手を乗せて言った。


「久しぶりだな、空。」
「皇憐…。」


大きく口を開けて笑う彼に、空は飛びついた。
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