龍は千年、桜の花を待ちわびる
「こ、皇憐だと…!? あの、『龍』の皇憐か!?」
「おう! 初めまして、皇帝陛下。」


飛びついてきた空を受け止め頭を撫でながら、動揺する皇帝に軽い調子で挨拶をした。

一方で私はというと、感激していた。


(ほ、本物だぁあ…!)


ぶっちゃけ大興奮だ。『皇憐-koren-』読者として言わせてほしい。皇憐は、外見が良すぎるのだ。
いや、登場人物全員がとんでもなく美しい外見をしている。もちろん先述の皇帝・皇后に続き、空も例に漏れずだ。


でも皇憐は別格! 超絶イケメンの黒髪長髪高めポニーテール最高!お気付きかと思いますが、私の推しは皇憐です…。

だからさっきからちょっと、ちょーっと期待してたよね、皇憐来るかな〜って。でもまだ召喚されたばっかりでまず自分の状況飲み込めてないし、そんな都合良くいかないよね〜、だって一応現実だもんね〜とか思ってたわけですよ。

そしたら! 本物!


「ほ、本物なのですか…!?」


動揺した皇后の高い声で我に返った。


(おっと、いけないいけない…。平常心、平常心…。)


困惑する群衆の中で、1人で両手で口元を抑えて、目をかっ開いて大興奮の変な奴をやっているのがバレるところだった。悲鳴を上げずに(もだ)えるタイプのオタクでよかった。


「おう。封印が弱まってるだろ? 隙間から俺の“妖気”が漏れ出て、こうして人型までとれちまったってわけ。」
「そ、それ程までに封印は弱まっておるのか…。」
「まぁ“本体”はまだ封印の中だし、漏れ出てる俺の妖気も大したことねぇし。今すぐに封印が解けるとかそういうのはねぇから安心しろ。」


皇帝と皇后は、皇憐の言葉にホッと胸を撫で下ろした。


「では、え〜、皇憐の説明も踏まえて話を戻すとしよう。」


皇帝は1つ咳払いをすると、私に向き直った。


「結。そなたを召喚したのは、ここにいる皇憐の封印を直してもらいたいからなのだ。」
「えっ…?」
「この皇憐はこの城に封印されている龍なのだ。しかし、その封印も施されてから約1000年が経ち、(ほころ)びが生じておる。そこで『古くからの言い伝え』に(のっと)り、異世界から召喚されたそなたに、その任を担ってもらいたいのだ。」
「わ……私…?」


だってその役目って…『皇憐-koren-』じゃ主人公の役目だったはず…。

私は衝撃のあまり、胃がズシリと重くなった。
< 6 / 131 >

この作品をシェア

pagetop