龍は千年、桜の花を待ちわびる
「この国が怨念の危機に晒されたとき、1番最初に行動を起こしたのは、桜琳、君だよ。私物を売って金を作ったり、自分の食料を民に分け与えたり。鬼を見つけてくれたのも君だった。……さすがに父上や母上の残飯を食べてるって聞いた時は笑ったけど。」


思い出し笑いをする秀明に思わず赤面する。確かに、残飯を食べるのはさすがにやりすぎたかもしれない…。


「君は国や民を思える人だ。そんな桜琳だから好きだし、隣に居て欲しいんだ。」
「秀明…。」
「……皇憐を愛したままでいいよ。僕のことは、国を、平和を…皇憐が守ってくれたものを守るために、利用すると思えばいい。」


私は微笑んで首を横に振った。秀明の指に絡む自分の指に力を込めると、真っ直ぐに秀明を見つめた。


「皇憐が封印されて、秀明と結婚することになって。国の繁栄のために、子を成さなければいけない。そうなった時に、相手が秀明で良かったと、心の底から思ったの。」
「桜琳…。」
「皇憐を忘れることなんて出来ないと思うわ。皇憐を、一生愛してると思う。でも私、秀明のことも愛しているのよ。」


そう笑うと、秀明は目を見開いた。


「もちろん、現状皇憐への愛と秀明への愛は別物よ。でも…、利用するなんて言わないで。」


秀明は困惑したようにアワアワした後、絡めていた指を解いた。

そして、真っ赤な顔で言った。


「あの、抱き締めても…、いい、かな。」


遠慮がちに問う秀明に思わず笑みが溢れた。こんな秀明は珍しい。頷くと、秀明は恐る恐る私を抱き締めた。


「…これから、よろしくね、桜琳。」
「…ええ。」


私は少し泣きそうになっていた。


体温、鼓動、匂い。私の名前を呼ぶ声。息遣い。

当たり前だけど皇憐と何もかもが違って、皇憐ではないことを実感してしまう。

こんな風に比較して…、最低な女だ。
< 60 / 131 >

この作品をシェア

pagetop