龍は千年、桜の花を待ちわびる
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「桜琳を秀明の婚約者として入宮させようと思う。」


陛下の言葉に、宰相(さいしょう)である私は頷いた。

身分としても申し分ないし、彼女はわずか5歳にして才女であると聞く。


そうして入宮してきた彼女は、早々に秀明様だけでなく皇憐殿とも親しくなり、楽しく宮中での日々を送っているようだった。
……悪戯なども皇憐殿に教えられたようで、少々困り物だったが。

教育担当に話を聞くと、勉学は優秀で全く問題なし。容姿も端麗で、申し分なしと思われていた。


しかし、やたらと皇憐殿と親しい。

秀明様と彼女が10になる頃には、明らかに2人の距離は近すぎた。本人たちが気付いているかは定かではなかったが…。


後に知ったことだったが、怨念騒動が勃発した際、最も早く行動を起こしていたのは彼女だった。

やはり、後の皇后として申し分ない。


けれど決定的な出来事が起こったのは、秀明様と彼女が15の頃だった。


「秀明と桜琳の婚約を破棄することになりそうだ。」


唐突な陛下の言葉に耳を疑った。

私の目から見ても秀明様と彼女の関係は良好だ。ということは、理由は1つ。


「…皇憐殿ですか。」
「あぁ。」


陛下は無表情で同意した。何とも意図の読み取りにくい表情である。


「ただ、怨念騒動で我々も手一杯だからな…。もし婚約破棄や新たな婚約者を見つけるとなると、騒動が落ち着いてからになるであろうな…。」
「それでよろしいのですか!? 彼女は元々秀明様の婚約者として入宮して…!」


そう詰め寄る私を、陛下は苦笑して制した。


「私とて複雑なのだ。秀明は桜琳を好いている。我が子の肩を持ちたいのは山々だが、皇憐は私にとっても兄のようなもの。やっと()い人と巡り会えたのかと思うと、それを無碍(むげ)にはできん。何より、婚約破棄を言い出したのは秀明なのだ。」
「しかし…!」
「今は怨念騒動が最優先だ。まだ猶予はある。」


そう言われて私は口をつぐんだ。


元々気に食わなかったのだ。

私は努力してこの地位を手に入れたというのに、最高権力を持つ皇憐殿が邪魔だった。
だから正直、皇憐殿が人柱となると決まった時、私は厄介払いができると喜んだものだ。


儀式の前の晩、2人が消えたと少し騒ぎになった。けれど陛下たちはそっとしておいてやれとおっしゃる。
正式に秀明様の婚約者となった今、不貞に値する行為を見逃す訳にはいかない。そう捲し立てると、陛下は彼女を叱咤した。

正直、私は自業自得だと思った。


儀式に現れた2人は、凛としていた。

特に彼女は泣いて大騒ぎをするものと思っていたため、凛とした彼女に思わず面食らってしまった。それは祝宴の際も変わらず、彼女は微笑みながら食事までしていた。

皇族として、あるべき姿そのものだった。
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