龍は千年、桜の花を待ちわびる
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いつもの回廊に腰掛けて、皇憐の定位置だった桜の木を見上げていた。
今年も綺麗に咲いた。空も、抜けるような青空だ。
「桜琳!」
呼ばれて振り返るより先に、金言が飛び付いてきた。
「ふふ、久しぶりね。」
「怨念騒動も落ち着いて、集まる頻度も減ったからな…。」
あれから数十年が経った。
私はシワクチャになったというのに、金言は14で見た目の成長が止まってしまったせいで、まるで孫のようだ。
今では私と秀明は隠居。息子に帝位を継がせ、のんびり余生を謳歌していた。
「綺麗だな。」
桜を見上げて言う金言に頷いた。
最近では体が思うように動かなくて、桜林にもあまり行けなくなってしまった。
「皆も元気?」
「おう、見た目も含め変わりないぞ!」
「ふふ、そう。安心したわ。」
「そうだ、秀明が呼んでたぞ! 皇憐の廟に来て欲しいって!」
「廟に…?」
私は金言に別れを告げると、皇憐の廟に向かった。
廟へは相変わらず毎日のように通っている。どうやら秀明曰く、中の皇憐に声が届いているらしい。
廟に入ると、秀明と空が居た。秀明もすっかり年を取った。お互いもう皺々だ。先ももうあまり長くないだろう。
「秀明、どうしたの?」
「桜琳。今から、ちょっと術をかけようと思ってね。」
「術?」
首を傾げると、空も頷く。よく見れば、秀明の足元に陣が描かれていた。
「正直に言うと、怨念を成仏させる術式…、完成させられなかったんだ。」
「なんだと、話が違うではないか。」
苦笑する秀明に対し、いつの間にか廟の入口に立っていた水凪が文句を言った。見れば、金言や木通、焔も居る。
「いやぁ、そう言われちゃうと耳が痛いなぁ。」
相変わらずの調子で言う秀明に思わず笑みが溢れる。こうして集まると、あの頃に戻ったようだ。
「それでね、桜琳。代わりと言っちゃ何なんだけど…。」
秀明は私の手を取って陣の内側に引き入れると、あの日の東屋のように、私の手を取って言った。
「奇跡を起こしてあげるよ。」
「奇跡…?」
「実は成仏の術式の代わりに、転生の術式を完成させたんだ。」
「たまたまだけどね」と付け加えて、首を傾げる私や鬼たちを見回した。
「要するに、輪廻転生を僕が操作する。」
「え?」
「この術を使うと、僕らは同じ時代に転生できる。僕はそこで今度こそ、怨念を成仏させる術式を完成させる。」
「私も転生するの…?」
意図が汲み取れず眉をひそめた。
霊力がある秀明ならともかく、私には霊力がない。転生したところで、何もできはしない。
「そう。この術式を発動させる時に空の力を組み込むんだ。」
「それで…?」
「1000年後に皇憐の封印に綻びが生じる。それまでに成仏の術式を完成させられなきゃならないわけなんだけど、そのとき、空に君をここに召喚してもらう。」
「召喚…?」
やはり意図が汲み取れなくて、私はまた首を傾げた。
「皇憐に、また会えるよ。」
そう言われて、私は目を見開いた。秀明に握られていた手を思わず振り解き、両手で口元を覆った。
「封印に綻びが生じたとき、僕もここに来る。そして、今度こそ怨念を成仏させる。そうしたら人柱は必要なくなるだろう? ……だからまた、皇憐に会えるよ。」
「嘘…。」
「こんな嘘つかないよ。」
優しく笑う秀明に涙が零れそうになった。空以外の鬼は呆然としていた。
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いつもの回廊に腰掛けて、皇憐の定位置だった桜の木を見上げていた。
今年も綺麗に咲いた。空も、抜けるような青空だ。
「桜琳!」
呼ばれて振り返るより先に、金言が飛び付いてきた。
「ふふ、久しぶりね。」
「怨念騒動も落ち着いて、集まる頻度も減ったからな…。」
あれから数十年が経った。
私はシワクチャになったというのに、金言は14で見た目の成長が止まってしまったせいで、まるで孫のようだ。
今では私と秀明は隠居。息子に帝位を継がせ、のんびり余生を謳歌していた。
「綺麗だな。」
桜を見上げて言う金言に頷いた。
最近では体が思うように動かなくて、桜林にもあまり行けなくなってしまった。
「皆も元気?」
「おう、見た目も含め変わりないぞ!」
「ふふ、そう。安心したわ。」
「そうだ、秀明が呼んでたぞ! 皇憐の廟に来て欲しいって!」
「廟に…?」
私は金言に別れを告げると、皇憐の廟に向かった。
廟へは相変わらず毎日のように通っている。どうやら秀明曰く、中の皇憐に声が届いているらしい。
廟に入ると、秀明と空が居た。秀明もすっかり年を取った。お互いもう皺々だ。先ももうあまり長くないだろう。
「秀明、どうしたの?」
「桜琳。今から、ちょっと術をかけようと思ってね。」
「術?」
首を傾げると、空も頷く。よく見れば、秀明の足元に陣が描かれていた。
「正直に言うと、怨念を成仏させる術式…、完成させられなかったんだ。」
「なんだと、話が違うではないか。」
苦笑する秀明に対し、いつの間にか廟の入口に立っていた水凪が文句を言った。見れば、金言や木通、焔も居る。
「いやぁ、そう言われちゃうと耳が痛いなぁ。」
相変わらずの調子で言う秀明に思わず笑みが溢れる。こうして集まると、あの頃に戻ったようだ。
「それでね、桜琳。代わりと言っちゃ何なんだけど…。」
秀明は私の手を取って陣の内側に引き入れると、あの日の東屋のように、私の手を取って言った。
「奇跡を起こしてあげるよ。」
「奇跡…?」
「実は成仏の術式の代わりに、転生の術式を完成させたんだ。」
「たまたまだけどね」と付け加えて、首を傾げる私や鬼たちを見回した。
「要するに、輪廻転生を僕が操作する。」
「え?」
「この術を使うと、僕らは同じ時代に転生できる。僕はそこで今度こそ、怨念を成仏させる術式を完成させる。」
「私も転生するの…?」
意図が汲み取れず眉をひそめた。
霊力がある秀明ならともかく、私には霊力がない。転生したところで、何もできはしない。
「そう。この術式を発動させる時に空の力を組み込むんだ。」
「それで…?」
「1000年後に皇憐の封印に綻びが生じる。それまでに成仏の術式を完成させられなきゃならないわけなんだけど、そのとき、空に君をここに召喚してもらう。」
「召喚…?」
やはり意図が汲み取れなくて、私はまた首を傾げた。
「皇憐に、また会えるよ。」
そう言われて、私は目を見開いた。秀明に握られていた手を思わず振り解き、両手で口元を覆った。
「封印に綻びが生じたとき、僕もここに来る。そして、今度こそ怨念を成仏させる。そうしたら人柱は必要なくなるだろう? ……だからまた、皇憐に会えるよ。」
「嘘…。」
「こんな嘘つかないよ。」
優しく笑う秀明に涙が零れそうになった。空以外の鬼は呆然としていた。