龍は千年、桜の花を待ちわびる
「んじゃ、首都に向けて出発だ!」
準備を早々に済ませた金言の言葉で、私たちは首都に向かって出発した。
道中金言はずっと嬉しそうに私の手を握っていて、皇憐はそれを見ては不機嫌そうにしていた。
「あのなぁ金言、見た目は桜琳だけど、今は結なんだぞ? ちゃんと分かってんのか?」
「分かってるよ! さっき声掛けに来た時は桜琳の口調だったけど、今は何か口調が違うからな! 俺は純粋に結にも懐いてんだ!」
そう言う金言に、皇憐は呆れた表情で溜め息を吐いた。
私はただ微笑ましくその光景を見守っていた。
やがて日が暮れ、いつものように皇憐が鎌倉を作ってくれた。
「相変わらずすげぇな、皇憐は…!」
「まぁな!」
鬼たちの年齢・性別はさまざまだが、1番皇憐と兄弟のように見えるのは間違いなく金言だ。
そんなことを思い出して思わず笑みを溢した。
先に風呂を済ませて金言と交代し、いつも通り服を乾かしてもらいに皇憐のもとへ行くと、皇憐に不貞腐れた表情で訊かれた。
「どこまでなら、許される?」
「へ?」
「…抱き締めるくらいなら、許してくれるか?」
そう言われて、私は一気に赤面した。
確かに、桜琳だった頃は恋仲でキスまでした。しかし、今の私は結で…何ならファーストキスもまだで…。
「皇憐は、私を『桜琳』として見てそう言ってるの? それとも、『結』として見て…そう言ってるの…?」
ギュッと持っていた籠を抱く手に力を込めてそう訊ねた。
正直、聞くのは怖い。けれど、訊かずにはいられなかった。
皇憐は私の目の前に立つと、静かに言った。
「両方…ってのは、ありか…?」
「え…?」
「元々は『桜琳』だけだった。記憶のない結と旅をしている間も、やっぱり桜琳を想ってた。けど気付けば、桜琳の記憶がなくても、それでもいいと思えるくらい『結』も大切になってた。」
私は思わず両手で口を覆った。洗濯物が入った籠が足元に落ちたが、2人とも気にも止めなかった。
「へへ…。」
思わず眉を垂らして笑うと、皇憐は困惑したように首を傾げた。
「なぁんだ…。私も、一緒…。順番は逆だけど、『結』として皇憐が好きだなって想って…、『桜琳』の記憶を取り戻して、やっと会えた、って…。」
そう言い終わるや否や、私は皇憐に抱き締められていた。その背中に手を回すと、胸元に頬擦りした。
懐かしい力強さ。けれど、先日感じたように匂いなどは一切感じない。
もう桜琳だった頃の記憶も朧げで、皇憐に抱き締められていると桜琳としても実感できるのは、その力強さだけだった。
少し体を離して皇憐を見上げると、私は微笑んで言った。
「ここから先は、『本物の皇憐』とがいいな。」
そう言うと、皇憐は苦笑した。
準備を早々に済ませた金言の言葉で、私たちは首都に向かって出発した。
道中金言はずっと嬉しそうに私の手を握っていて、皇憐はそれを見ては不機嫌そうにしていた。
「あのなぁ金言、見た目は桜琳だけど、今は結なんだぞ? ちゃんと分かってんのか?」
「分かってるよ! さっき声掛けに来た時は桜琳の口調だったけど、今は何か口調が違うからな! 俺は純粋に結にも懐いてんだ!」
そう言う金言に、皇憐は呆れた表情で溜め息を吐いた。
私はただ微笑ましくその光景を見守っていた。
やがて日が暮れ、いつものように皇憐が鎌倉を作ってくれた。
「相変わらずすげぇな、皇憐は…!」
「まぁな!」
鬼たちの年齢・性別はさまざまだが、1番皇憐と兄弟のように見えるのは間違いなく金言だ。
そんなことを思い出して思わず笑みを溢した。
先に風呂を済ませて金言と交代し、いつも通り服を乾かしてもらいに皇憐のもとへ行くと、皇憐に不貞腐れた表情で訊かれた。
「どこまでなら、許される?」
「へ?」
「…抱き締めるくらいなら、許してくれるか?」
そう言われて、私は一気に赤面した。
確かに、桜琳だった頃は恋仲でキスまでした。しかし、今の私は結で…何ならファーストキスもまだで…。
「皇憐は、私を『桜琳』として見てそう言ってるの? それとも、『結』として見て…そう言ってるの…?」
ギュッと持っていた籠を抱く手に力を込めてそう訊ねた。
正直、聞くのは怖い。けれど、訊かずにはいられなかった。
皇憐は私の目の前に立つと、静かに言った。
「両方…ってのは、ありか…?」
「え…?」
「元々は『桜琳』だけだった。記憶のない結と旅をしている間も、やっぱり桜琳を想ってた。けど気付けば、桜琳の記憶がなくても、それでもいいと思えるくらい『結』も大切になってた。」
私は思わず両手で口を覆った。洗濯物が入った籠が足元に落ちたが、2人とも気にも止めなかった。
「へへ…。」
思わず眉を垂らして笑うと、皇憐は困惑したように首を傾げた。
「なぁんだ…。私も、一緒…。順番は逆だけど、『結』として皇憐が好きだなって想って…、『桜琳』の記憶を取り戻して、やっと会えた、って…。」
そう言い終わるや否や、私は皇憐に抱き締められていた。その背中に手を回すと、胸元に頬擦りした。
懐かしい力強さ。けれど、先日感じたように匂いなどは一切感じない。
もう桜琳だった頃の記憶も朧げで、皇憐に抱き締められていると桜琳としても実感できるのは、その力強さだけだった。
少し体を離して皇憐を見上げると、私は微笑んで言った。
「ここから先は、『本物の皇憐』とがいいな。」
そう言うと、皇憐は苦笑した。