龍は千年、桜の花を待ちわびる
宮殿に到着すると、手を繋いだ私と金言を見て空と水凪は目を丸くした。


「ただいま、空、水凪。」


そう声を掛けると、2人は顔を見合わせた。


「そなた…、桜琳の記憶が…?」
「うん。…やっと、思い出せたよ。」


そう言って微笑むと、2人に抱き付かれた。痛いくらいに抱き締められて、少し涙腺が緩んだ。


「もう、思い出さぬものとばかり…。」
「空も…。」


そう言う2人の声が掠れていた。つられて零れそうになる涙をグッと堪えて、2人の抱擁に応えた。


「あはは…、本当に…『奇跡』だ…。」


とても不思議な感じだ。

ここを出たときと気持ちが違うのはもちろんだが、桜琳としての記憶を取り戻した今は、家に帰って来て家族に出迎えられたような気分だ。


「奇跡だ。奇跡以外の何物でもない。こんな話…私は聞いたことがない。」
「空も…秀明と術作ってたとき、怖くて…。」


そう言う2人の背中を摩った。


--『奇跡を起こしてあげるよ。』


そう言っていた秀明の顔を思い出す。

秀明、奇跡は起きたよ。あなたの言う『奇跡』とはもしかしたら違うのかもしれないけど、私にとってはもう、十分すぎる奇跡だ。


「残るは焔と木通だね。」


2人から離れると、皆を見渡した。すると、皇憐が変な笑みを浮かべて言った。


「あぁ。あと、秀明の奴もな。」
「…? うん、そうだね。」


首を傾げながら同意した。桜琳(わたし)の知らないところ…死後にでも何かあったんだろうか。


「秀明…、本当はもう、ここに居る…。」
「え…?」


ポツリと呟いた空に思わず反応する。


「本当は、結と同じ頃、自分で来るって…。」
「確かに秀明くらいの霊力がありゃ可能だろうな…。」


皇憐は眉をしかめ何かを思案しているようだった。この様子だと、秀明はまだこちらの世界に来ていないのだろう。


「大丈夫だよ、きっと! だって秀明だもん。」


笑ってそう言うと、4人も笑った。


「まぁ、ああ見えてアイツ結構自分勝手だからな。」
「そうであったか…?」
「皇憐、1番自分勝手…。」
「間違いないな!」
「ん!?」


1000年ぶりとは思えないテンポの良い会話に思わず笑いが漏れた。

今も昔も、1つだけ変わらないことがある。無力な私にできるのは、皆の支えとなること。


「今は信じよう、秀明を。」


笑顔でそう言うと、皆も笑顔で頷いた。


だって、こんな奇跡を起こした秀明だもん。

果たして秀明程の術者が現在存在するかは不明だが、このまま鬼と楽器を集め終われば再封印が出来るようになる。
きっと私が胡散臭いと言ったあの言い伝え以外にも、秀明が私の死後にいろいろ画策していたのだろう。

秀明のことだ、絶対に皇憐を再封印なんてさせないはず。今はただ秀明を信じて、言い伝え通り皆を集めよう。
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