龍は千年、桜の花を待ちわびる
鬼の皆と別れ、帰還したことを伝えに皇憐とともに皇帝・皇后の元へ赴くと、2人は最敬礼の姿勢をとった。
「どうしたんですか!?」
困惑する私を他所に、2人は顔を上げなかった。
「桜琳様であった頃の記憶が戻ったと伺いました。あなたがここに召喚されてからの無礼、お許しください。」
無礼とは何のことを言っているのだろうか。首を傾げる私に気が付いて、皇后が説明した。
「もし桜琳様が記憶を失った状態で召喚された場合、何も知らぬ振りをせよと秀明様からの言い伝えが遺っております。」
「え…。」
「そして、恐らく皇憐様が人型として現れるだろうから、2人で旅をさせよ、と…。」
そこまで聞いて、私と皇憐は顔を見合わせた。
どういうことだろうか。胡散臭いとは思っていたけれど、これではまるで…、『私と皇憐のための言い伝え』だ。
「もし言い伝えが明文化されているようでしたら、明日にでも確認させていただいてもよろしいでしょうか…?」
そう訊ねると、「もちろんです」と2人から笑顔で言われた。
そして先代に敬語を使われることに抵抗があるとうるさいので、私はまさかの皇帝・皇后に対してタメ口で話をする羽目になった。
「秀明の奴、どこまで企んでたんだろうな。」
いつもの回廊に腰掛け、桜の木の定位置に座る皇憐を見上げた。
「秀明だもんなぁ。多分、私たちの考えが及ばないようなところまでいろいろ仕組んでるんじゃない?」
「ったく…。」
今にして思えば、『皇憐-koren-』は秀明からの何かしらのメッセージだったのだろう。私が上手く汲み取れたのかは不安だが…。
「秀明からまたお前に会えるとは聞いてたけどよ、まさか俺が封印されたときのままのお前に会えるとは思わなかった。」
「あ…。」
確かに、私は今17歳。皇憐が封印されたときの桜琳も17歳だった。
私は口を手で覆った。秀明のことだ、これも狙い通りなのだろう…。
「でも…、じゃあシワクチャになった桜琳は皇憐には見られてないんだ。」
笑いながらそう言うと、皇憐は微笑んだ。
「見えてねぇよ、ずっと封印の暗闇の中だ。でも桜琳、毎日話し掛けに来てただろ。それが、あの暗闇の中で唯一の光だった。」
「やっぱり聞こえてたんだ。」
「人柱の寿命が関わるからな。普通の人間なら気が狂ってただろうな。」
数千年と生きている皇憐だからこそ出来たことだったんだろう。けれど同時に、そのせいでそんな状況を1000年も彼に強いてしまった。
「ごめんね、永い間…。」
そう言う私に、皇憐は笑った。
「お前、毎日子ども連れて来てたろ。お前が来なくなったかと思ったら秀明と子どもが来るようになったし、秀明が逝ったと思ったら、子どもがまた子ども連れて来てよ。」
私たちの子孫がずっと…。
私は苦笑を漏らした。私が毎日廟に通っていたから、そういうものだと思ったのだろう。
「それに俺がどれだけ救われたか。」
「救われた…?」
「暗闇の中に怨念とずーっと一緒だぞ? そうでなくても気が狂うっつうのに。…桜琳を、その子孫を守るはずが…、俺の方が守られちまったな。」
そう皇憐が言った直後、雲の切れ間から満月が顔を出した。月明かりに照らされた皇憐が眩しくて、私は微笑みながら少し目を細めた。
「……そんなことない。今感じるこの月の光も、皇憐がくれたものだよ。この国は今だって、皇憐に守られてるんだよ。」
そう言うと、皇憐は嬉しそうに笑って月を見上げた。
「どうしたんですか!?」
困惑する私を他所に、2人は顔を上げなかった。
「桜琳様であった頃の記憶が戻ったと伺いました。あなたがここに召喚されてからの無礼、お許しください。」
無礼とは何のことを言っているのだろうか。首を傾げる私に気が付いて、皇后が説明した。
「もし桜琳様が記憶を失った状態で召喚された場合、何も知らぬ振りをせよと秀明様からの言い伝えが遺っております。」
「え…。」
「そして、恐らく皇憐様が人型として現れるだろうから、2人で旅をさせよ、と…。」
そこまで聞いて、私と皇憐は顔を見合わせた。
どういうことだろうか。胡散臭いとは思っていたけれど、これではまるで…、『私と皇憐のための言い伝え』だ。
「もし言い伝えが明文化されているようでしたら、明日にでも確認させていただいてもよろしいでしょうか…?」
そう訊ねると、「もちろんです」と2人から笑顔で言われた。
そして先代に敬語を使われることに抵抗があるとうるさいので、私はまさかの皇帝・皇后に対してタメ口で話をする羽目になった。
「秀明の奴、どこまで企んでたんだろうな。」
いつもの回廊に腰掛け、桜の木の定位置に座る皇憐を見上げた。
「秀明だもんなぁ。多分、私たちの考えが及ばないようなところまでいろいろ仕組んでるんじゃない?」
「ったく…。」
今にして思えば、『皇憐-koren-』は秀明からの何かしらのメッセージだったのだろう。私が上手く汲み取れたのかは不安だが…。
「秀明からまたお前に会えるとは聞いてたけどよ、まさか俺が封印されたときのままのお前に会えるとは思わなかった。」
「あ…。」
確かに、私は今17歳。皇憐が封印されたときの桜琳も17歳だった。
私は口を手で覆った。秀明のことだ、これも狙い通りなのだろう…。
「でも…、じゃあシワクチャになった桜琳は皇憐には見られてないんだ。」
笑いながらそう言うと、皇憐は微笑んだ。
「見えてねぇよ、ずっと封印の暗闇の中だ。でも桜琳、毎日話し掛けに来てただろ。それが、あの暗闇の中で唯一の光だった。」
「やっぱり聞こえてたんだ。」
「人柱の寿命が関わるからな。普通の人間なら気が狂ってただろうな。」
数千年と生きている皇憐だからこそ出来たことだったんだろう。けれど同時に、そのせいでそんな状況を1000年も彼に強いてしまった。
「ごめんね、永い間…。」
そう言う私に、皇憐は笑った。
「お前、毎日子ども連れて来てたろ。お前が来なくなったかと思ったら秀明と子どもが来るようになったし、秀明が逝ったと思ったら、子どもがまた子ども連れて来てよ。」
私たちの子孫がずっと…。
私は苦笑を漏らした。私が毎日廟に通っていたから、そういうものだと思ったのだろう。
「それに俺がどれだけ救われたか。」
「救われた…?」
「暗闇の中に怨念とずーっと一緒だぞ? そうでなくても気が狂うっつうのに。…桜琳を、その子孫を守るはずが…、俺の方が守られちまったな。」
そう皇憐が言った直後、雲の切れ間から満月が顔を出した。月明かりに照らされた皇憐が眩しくて、私は微笑みながら少し目を細めた。
「……そんなことない。今感じるこの月の光も、皇憐がくれたものだよ。この国は今だって、皇憐に守られてるんだよ。」
そう言うと、皇憐は嬉しそうに笑って月を見上げた。