龍は千年、桜の花を待ちわびる
いつものように1日休息を取ってから次の旅へ出発するとのことだったので、今日は1日『桜琳』として過ごすことにした。
というのも、せっかく生前の世界へ来れたのだ。
自分の子どもたちがどうなったのか、あの後この国がどのような歴史をたどって来たのかを知りたかった。
となると、今日の私は『桜琳』だ。口調はなんだかこそばゆくて通常通りだが…。
「結様。」
呼ばれて振り返ると、皇后が居た。
「こちら、昨日お話ししておりました『秀明様の言い伝え』をまとめた本です。」
「ありがとう。」
本を受け取ると、思いの外本が綺麗なことに驚いた。書き直された物なのだろうか。そう思いながら本を開いて、また驚いた。
「秀明の字…。」
「はい。」
皇后はニコニコと笑った。
「1000年も昔の本なのに…。」
「代々皆、秀明様、桜琳様、そして…皇憐様に敬意を抱いて過ごしてまいりました。ですので、本は大切に保管しておりました。」
「それで…。」
道理で綺麗なわけだ。後世でそんな風に評価されているなんて、少しこそばゆいが…、喜ばしい限りだ。ついつい笑みが溢れてしまう。
「では、失礼しますね。」
「うん、ありがとう。」
皇后が退室した後、私は資料室で床に座り込んで本を読み耽っていた。
私の子どもたちや孫たちは皆幸せに生涯を終えたようだ。
その後の出生率も生存率も鰻登り。西の街からこちらに戻る際に思ったが、やはり人口がかなり増えていた。
「やっぱり、『龍の加護』なのかな。」
秀明との会話を思い出しながらつい笑ってそう溢すと、思わぬ所から声がした。
「そうかもな。」
「皇憐!?」
いつの間にか近くの椅子に腰掛けた皇憐が居て、私は思わず大きな声を出してしまった。
周囲を見回すと、何事かと文官がこちらを見ていたので、苦笑しながら会釈をしておいた。
「本当に龍の加護なの? というか、『加護』なんて使えるの?」
椅子からひょいと飛び降りた皇憐は私の隣に来ると、いつものように胡座をかいた膝の上に肘をついて頬杖をついた。
「加護は使えねぇよ、たぶん。俺も分からん。でも、封印の中で毎日祈ってはいたぞ。」
そう言われて、私は微笑みながら少し泣きそうになった。あんな永い年月の中、気が狂う程の暗闇の中で、毎日…。
加護じゃなかろうと、祈りによる奇跡だったとしても何だっていい。
「…ありがとう。」
「何言ってんだ。水凪が言ってたろ、『今の封印は、1人の乙女のおかげで成し得たと言っても過言ではない』って。」
「そういえば…。」
「“お前”のことだぞ。」
「あれってそういうこと!?」
言われてみればそうなのかもしれないけれど…、改めて認識すると、そういう表現の仕方は何だか急に恥ずかしくなってしまう。
「俺がずっと平和を祈ってたのだって、桜琳が居なくなった国には正直興味はなかったが、桜琳が愛した国だ。桜琳の子孫もいる。何より、1000年後にまた会えるって、アイツが言ったからな。」
「皇憐…。」
「重いだろ、俺の愛は。」
「本当だよ、文字通り国を背負ってるよ。」
というのも、せっかく生前の世界へ来れたのだ。
自分の子どもたちがどうなったのか、あの後この国がどのような歴史をたどって来たのかを知りたかった。
となると、今日の私は『桜琳』だ。口調はなんだかこそばゆくて通常通りだが…。
「結様。」
呼ばれて振り返ると、皇后が居た。
「こちら、昨日お話ししておりました『秀明様の言い伝え』をまとめた本です。」
「ありがとう。」
本を受け取ると、思いの外本が綺麗なことに驚いた。書き直された物なのだろうか。そう思いながら本を開いて、また驚いた。
「秀明の字…。」
「はい。」
皇后はニコニコと笑った。
「1000年も昔の本なのに…。」
「代々皆、秀明様、桜琳様、そして…皇憐様に敬意を抱いて過ごしてまいりました。ですので、本は大切に保管しておりました。」
「それで…。」
道理で綺麗なわけだ。後世でそんな風に評価されているなんて、少しこそばゆいが…、喜ばしい限りだ。ついつい笑みが溢れてしまう。
「では、失礼しますね。」
「うん、ありがとう。」
皇后が退室した後、私は資料室で床に座り込んで本を読み耽っていた。
私の子どもたちや孫たちは皆幸せに生涯を終えたようだ。
その後の出生率も生存率も鰻登り。西の街からこちらに戻る際に思ったが、やはり人口がかなり増えていた。
「やっぱり、『龍の加護』なのかな。」
秀明との会話を思い出しながらつい笑ってそう溢すと、思わぬ所から声がした。
「そうかもな。」
「皇憐!?」
いつの間にか近くの椅子に腰掛けた皇憐が居て、私は思わず大きな声を出してしまった。
周囲を見回すと、何事かと文官がこちらを見ていたので、苦笑しながら会釈をしておいた。
「本当に龍の加護なの? というか、『加護』なんて使えるの?」
椅子からひょいと飛び降りた皇憐は私の隣に来ると、いつものように胡座をかいた膝の上に肘をついて頬杖をついた。
「加護は使えねぇよ、たぶん。俺も分からん。でも、封印の中で毎日祈ってはいたぞ。」
そう言われて、私は微笑みながら少し泣きそうになった。あんな永い年月の中、気が狂う程の暗闇の中で、毎日…。
加護じゃなかろうと、祈りによる奇跡だったとしても何だっていい。
「…ありがとう。」
「何言ってんだ。水凪が言ってたろ、『今の封印は、1人の乙女のおかげで成し得たと言っても過言ではない』って。」
「そういえば…。」
「“お前”のことだぞ。」
「あれってそういうこと!?」
言われてみればそうなのかもしれないけれど…、改めて認識すると、そういう表現の仕方は何だか急に恥ずかしくなってしまう。
「俺がずっと平和を祈ってたのだって、桜琳が居なくなった国には正直興味はなかったが、桜琳が愛した国だ。桜琳の子孫もいる。何より、1000年後にまた会えるって、アイツが言ったからな。」
「皇憐…。」
「重いだろ、俺の愛は。」
「本当だよ、文字通り国を背負ってるよ。」