龍は千年、桜の花を待ちわびる
私は見たい資料を見終えると、皇后から借りた本を持って皇憐とともに蓮池の畔へ向かった。
「ここも懐かしいな…。」
「そうだね。よく3人で作戦会議したよね。」
1人じゃ何も出来ない子どもだったあの頃。3人で額を寄せ合って、ああだこうだと言い合った。
何かを成せるようになった頃には、鬼や彩雲たちも加わって賑やかになり、ここはそういった用途では使わなくなってしまっていた。
「さて。読んでみようぜ、その本。」
「うん。」
開くと、紙の古さから時を感じた。
改めて、よくこんなに綺麗に残っているものだ。ページをめくるのにも気を遣う。
皇憐と慎重に、そして黙々と本を読んだ。
内容は、簡単にまとめるとこうだった。
1000年後、封印が弱まり始めるだろう。
各地で怨念騒動の報告が上がり始めたら、私を召喚すること。召喚の方法は空に伝授済みであること。
召喚された私は恐らく『桜琳』としての記憶を持っていないため、皇族も鬼もあえて知らないフリをしてほしいこと。
無理に思い出させようとしないこと。
記憶の有無に関わらず、私を『桜琳』として扱わないこと。
もし記憶があったとしても、後述の通り皇憐と旅をさせることに変わりはないこと。
私が召喚される頃には皇憐が漏れ出た妖気で人型を取って現れるだろうから、基本的には2人きりで旅をさせること。
桜琳としての記憶がある場合は、鬼に限り同行可能であること。
そして自分は封印に限界が訪れるまでには必ず戻って来るということ。
また、皇憐や封印、怨念について口外しないこと。
「……何だか本当、秀明の手の平の上で踊らされてる気分だね。」
そう苦笑すると、皇憐も苦笑した。
本を閉じて胸にギュッと抱き締めた後、私は本を押し付けるように皇憐に渡した。
本を、涙で汚してしまいそうだったから。
「明記されてなかったけど、秀明が考えてたこと、この言い伝えに関しては珍しくちゃんと分かる気がする。」
「あぁ、俺もだ。」
私は青空を見上げた。
私に桜琳としての記憶がなかった場合、無理に桜琳としての記憶を呼び覚ませば、きっと私は『桜琳として皇憐が好き』なのか、それとも『結として皇憐が好き』なのか、確実に分からなくなっていた。
それはきっと皇憐にも言えること。
きっと私たちが新しい形で出逢っても、また恋に落ちるよう仕組んだんだ。確証なんてないはずなのに、そういうところが秀明らしい。
そして、皇憐や封印、怨念について口外しないということは、宮殿外の人々の記憶から忘れ去られるということ。
「ねぇ、皇憐。」
「ん?」
「秀明が考えてることって昔から分からないんだけどさ。」
「あぁ。」
「まだ『奇跡』、残ってそうじゃない?」
零れた涙をそのままに皇憐に笑いかけると、皇憐も笑った。
「…俺も、そんな気がする。」
「ここも懐かしいな…。」
「そうだね。よく3人で作戦会議したよね。」
1人じゃ何も出来ない子どもだったあの頃。3人で額を寄せ合って、ああだこうだと言い合った。
何かを成せるようになった頃には、鬼や彩雲たちも加わって賑やかになり、ここはそういった用途では使わなくなってしまっていた。
「さて。読んでみようぜ、その本。」
「うん。」
開くと、紙の古さから時を感じた。
改めて、よくこんなに綺麗に残っているものだ。ページをめくるのにも気を遣う。
皇憐と慎重に、そして黙々と本を読んだ。
内容は、簡単にまとめるとこうだった。
1000年後、封印が弱まり始めるだろう。
各地で怨念騒動の報告が上がり始めたら、私を召喚すること。召喚の方法は空に伝授済みであること。
召喚された私は恐らく『桜琳』としての記憶を持っていないため、皇族も鬼もあえて知らないフリをしてほしいこと。
無理に思い出させようとしないこと。
記憶の有無に関わらず、私を『桜琳』として扱わないこと。
もし記憶があったとしても、後述の通り皇憐と旅をさせることに変わりはないこと。
私が召喚される頃には皇憐が漏れ出た妖気で人型を取って現れるだろうから、基本的には2人きりで旅をさせること。
桜琳としての記憶がある場合は、鬼に限り同行可能であること。
そして自分は封印に限界が訪れるまでには必ず戻って来るということ。
また、皇憐や封印、怨念について口外しないこと。
「……何だか本当、秀明の手の平の上で踊らされてる気分だね。」
そう苦笑すると、皇憐も苦笑した。
本を閉じて胸にギュッと抱き締めた後、私は本を押し付けるように皇憐に渡した。
本を、涙で汚してしまいそうだったから。
「明記されてなかったけど、秀明が考えてたこと、この言い伝えに関しては珍しくちゃんと分かる気がする。」
「あぁ、俺もだ。」
私は青空を見上げた。
私に桜琳としての記憶がなかった場合、無理に桜琳としての記憶を呼び覚ませば、きっと私は『桜琳として皇憐が好き』なのか、それとも『結として皇憐が好き』なのか、確実に分からなくなっていた。
それはきっと皇憐にも言えること。
きっと私たちが新しい形で出逢っても、また恋に落ちるよう仕組んだんだ。確証なんてないはずなのに、そういうところが秀明らしい。
そして、皇憐や封印、怨念について口外しないということは、宮殿外の人々の記憶から忘れ去られるということ。
「ねぇ、皇憐。」
「ん?」
「秀明が考えてることって昔から分からないんだけどさ。」
「あぁ。」
「まだ『奇跡』、残ってそうじゃない?」
零れた涙をそのままに皇憐に笑いかけると、皇憐も笑った。
「…俺も、そんな気がする。」