龍は千年、桜の花を待ちわびる
充電も十分。3度目の旅へいざ出発という時、見送りの中に空の姿が見当たらなかった。
「どうしたんだろう…。空、いつもなら1番に来てくれるのに…。」
「確かに見当たらぬな…。」
「時間にキッチリしてるアイツが居ないなんて珍しいな!」
ソワソワした皇憐はすでに荷物を持って城門付近をウロウロしていた。そんな皇憐を放置して、水凪、金言とともに空の部屋へと向かった。
向かう道中、今更気が付いた。
空が使用している部屋は、かつて私の部屋だった場所だ。
「空、居る?」
声を掛け扉を叩くと、中から返事があった。
「開けるよー?」
「待って」という空の静止の言葉よりも先に、私は思い切り扉を開けてしまった。
「ご、ごめん!」
慌てて扉を閉めようとすると、空がそれを遮った。
「大丈夫…。」
「ごめんね、勝手に開けちゃって…。」
「ううん…。」
ふと顔を上げると、部屋には扇や着物、豪華な装飾品が所狭しと並べられていた。
以前来た時には、他人の私物をあまり見るものではないと目をすぐにそらしてしまったが、今回は違った。
私はそのうちの1つを手に取った。
「これ…桜琳の…?」
そう訊ねると、空は少し気まずそうに頷いた。
さっき私が扉を開けるのを静止したのはそういう訳だったのか。態度からして、水凪と金言は知っていたようだ。
「桜琳死んだ後、私、この部屋もらった…。その時桜琳の物も、桜琳の子や孫にも譲った…けど、大半は私が…。」
以前この部屋に来た際に、普段の空からは想像できないような豪華な物が多いという印象を受けたが…そういうことだったのか。
「これ、探してて…。」
そう言う空の手には古びた木箱が乗っていた。
空の言い方からして、私に渡すために探してくれていたようだ。
「これ、って…まさか…。」
私はその木箱を手に取ると、そっと蓋を開けた。
そこには、煌びやかな簪が入っていた。
満開の桜や花びらの装飾が施された、金製の簪は1000年経っても褪せることなく美しい。
「桜琳…それ、すごく大事にしてたから…。」
私は空をギュッと抱き締めた。
この簪は皇憐が私にくれた、最初で最後のプレゼントだった。
彼が封印されると決まるまでは、よくこれを髪に挿したものだ。最後にこの簪を挿したのは、恐らく“あの晩”だろう。
それ以降は、前を向くため箪笥に仕舞い込んでいた。
たまにどうしても皇憐に縋りたくなった時に、独り取り出しては眺め磨き、を繰り返していた。
「ありがとう。空がずっと磨いてくれていたの?」
「うん…。」
「本当にありがとう。」
私はそれを手に持ったまま、空と水凪、金言とともに城門で待つ皇憐のもとへと戻った。
「遅ぇぞ! って、なんだ結。機嫌良いな…。」
ニコニコ…いや、ニヤニヤする私を見て、皇憐は軽く引いていた。
私が木箱を皇憐に見せると、皇憐は少し固まった。
「まさか…。」
「そう、そのまさか。」
蓋を開くと、中身を見た皇憐は優しく笑った。
「空が保管してくれてたのか?」
「うん…。」
「ありがとうな。」
そう言われて、空は少し泣きそうな顔をした。
「よし、そんじゃ行くか!」
「うん! いってきます!」
空と水凪、金言に声を掛けると、3人は手を振って私たちを送り出してくれた。
「どうしたんだろう…。空、いつもなら1番に来てくれるのに…。」
「確かに見当たらぬな…。」
「時間にキッチリしてるアイツが居ないなんて珍しいな!」
ソワソワした皇憐はすでに荷物を持って城門付近をウロウロしていた。そんな皇憐を放置して、水凪、金言とともに空の部屋へと向かった。
向かう道中、今更気が付いた。
空が使用している部屋は、かつて私の部屋だった場所だ。
「空、居る?」
声を掛け扉を叩くと、中から返事があった。
「開けるよー?」
「待って」という空の静止の言葉よりも先に、私は思い切り扉を開けてしまった。
「ご、ごめん!」
慌てて扉を閉めようとすると、空がそれを遮った。
「大丈夫…。」
「ごめんね、勝手に開けちゃって…。」
「ううん…。」
ふと顔を上げると、部屋には扇や着物、豪華な装飾品が所狭しと並べられていた。
以前来た時には、他人の私物をあまり見るものではないと目をすぐにそらしてしまったが、今回は違った。
私はそのうちの1つを手に取った。
「これ…桜琳の…?」
そう訊ねると、空は少し気まずそうに頷いた。
さっき私が扉を開けるのを静止したのはそういう訳だったのか。態度からして、水凪と金言は知っていたようだ。
「桜琳死んだ後、私、この部屋もらった…。その時桜琳の物も、桜琳の子や孫にも譲った…けど、大半は私が…。」
以前この部屋に来た際に、普段の空からは想像できないような豪華な物が多いという印象を受けたが…そういうことだったのか。
「これ、探してて…。」
そう言う空の手には古びた木箱が乗っていた。
空の言い方からして、私に渡すために探してくれていたようだ。
「これ、って…まさか…。」
私はその木箱を手に取ると、そっと蓋を開けた。
そこには、煌びやかな簪が入っていた。
満開の桜や花びらの装飾が施された、金製の簪は1000年経っても褪せることなく美しい。
「桜琳…それ、すごく大事にしてたから…。」
私は空をギュッと抱き締めた。
この簪は皇憐が私にくれた、最初で最後のプレゼントだった。
彼が封印されると決まるまでは、よくこれを髪に挿したものだ。最後にこの簪を挿したのは、恐らく“あの晩”だろう。
それ以降は、前を向くため箪笥に仕舞い込んでいた。
たまにどうしても皇憐に縋りたくなった時に、独り取り出しては眺め磨き、を繰り返していた。
「ありがとう。空がずっと磨いてくれていたの?」
「うん…。」
「本当にありがとう。」
私はそれを手に持ったまま、空と水凪、金言とともに城門で待つ皇憐のもとへと戻った。
「遅ぇぞ! って、なんだ結。機嫌良いな…。」
ニコニコ…いや、ニヤニヤする私を見て、皇憐は軽く引いていた。
私が木箱を皇憐に見せると、皇憐は少し固まった。
「まさか…。」
「そう、そのまさか。」
蓋を開くと、中身を見た皇憐は優しく笑った。
「空が保管してくれてたのか?」
「うん…。」
「ありがとうな。」
そう言われて、空は少し泣きそうな顔をした。
「よし、そんじゃ行くか!」
「うん! いってきます!」
空と水凪、金言に声を掛けると、3人は手を振って私たちを送り出してくれた。