龍は千年、桜の花を待ちわびる
「今日はここまでにすっか!」
皇憐の言葉を合図に、私はその場に崩れ落ちた。足が限界だ。北に向かうのと南に向かうのとでは、こうも足場が違うとは。
北や西に向かう際はどちらかというと岩っぽいゴツゴツした道だったのだが、今回は土っぽい道で、歩いた感触や使う筋肉が全然違う。
「死にそう…。」
「今晩は道中手に入れた仔鹿のご馳走が待ってっから、さっさと湯浴みして来い。」
いつものように鎌倉を作る皇憐にそう言われ、私は荷物と一緒に置かれた子鹿をチラリと見た。
こんな小さな仔鹿まで、怨念の餌食になってしまった。
あの熊以降もこういったことはやはり何度もあった。けれど、幼獣は初めてだ…。
私は仔鹿にそっと手を合わせた。
鬼の皆が対処してくれているから、街の人は大丈夫だろう。だけど、街の外でこうなってしまったら…?
もうすでに、あの頃と同じような状況になり始めているのかもしれない。運良く、動物にしか出合わなかっただけで…。
(弱音なんて、吐いてる場合じゃない。)
私は荷物から着替えを取り出すと、皇憐が作ってくれた風呂へと向かった。
風呂を出ると皇憐はすでに調理を終え、ボンヤリと火を眺めていた。
「皇憐…?」
皇憐はハッと我に返ると、「飯できてるぞ」と笑って言った。
私は籠を持ったまま皇憐の隣に腰掛けると、そっと顔を覗き込んだ。笑顔だが、なんだか…。
「……1度弱み見せちまうとダメだな。」
皇憐は吐き捨てるように言いながら苦笑すると、再びボンヤリと火を見つめた。
「あの頃みたいになるくらいなら、俺は永遠に人柱のままでいい。」
「え…?」
「もうあんな怨念騒動はごめんだ。」
「皇憐…。」
「秀明の奴はどこで何やってんだ、ったく…。」
「…きっと、間に合う。何か理由があるんだよ。」
「分かってっけど…。封印の仕組みは覚えてるか?」
私は頷いた。主に外から秀明の霊力、中から皇憐の妖力で怨念を抑え込む。
「もう秀明の霊力がかなり弱まってきてる。まだ猶予はあるが、余裕ぶっこいられる程じゃねぇ。」
「そう…。」
私にも霊力があればよかったのに。
桜琳だった頃から何度そう思ったことだろう。何もできない、この歯痒さ。
「結が仔鹿に手合わせてんの見たら、捌きにくくなっちまった。」
「ご、ごめん…!」
「いや。…人も動物も、子ども相手ってのはやり難いもんだな。」
「…そうだね。」
命の重みにこんなにしっかりと向き合ったことが今まであっただろうか。食べるということは、生きるということは、命をいただくということ。
『いただきます』という言葉の意味を、ここまで身をもって痛感する日が来ようとは。
私たちは鹿鍋を食べ終えると片付けをし、寝床のある鎌倉へと入った。
「なっ…!?」
私は中に入って絶句した。
皇憐の言葉を合図に、私はその場に崩れ落ちた。足が限界だ。北に向かうのと南に向かうのとでは、こうも足場が違うとは。
北や西に向かう際はどちらかというと岩っぽいゴツゴツした道だったのだが、今回は土っぽい道で、歩いた感触や使う筋肉が全然違う。
「死にそう…。」
「今晩は道中手に入れた仔鹿のご馳走が待ってっから、さっさと湯浴みして来い。」
いつものように鎌倉を作る皇憐にそう言われ、私は荷物と一緒に置かれた子鹿をチラリと見た。
こんな小さな仔鹿まで、怨念の餌食になってしまった。
あの熊以降もこういったことはやはり何度もあった。けれど、幼獣は初めてだ…。
私は仔鹿にそっと手を合わせた。
鬼の皆が対処してくれているから、街の人は大丈夫だろう。だけど、街の外でこうなってしまったら…?
もうすでに、あの頃と同じような状況になり始めているのかもしれない。運良く、動物にしか出合わなかっただけで…。
(弱音なんて、吐いてる場合じゃない。)
私は荷物から着替えを取り出すと、皇憐が作ってくれた風呂へと向かった。
風呂を出ると皇憐はすでに調理を終え、ボンヤリと火を眺めていた。
「皇憐…?」
皇憐はハッと我に返ると、「飯できてるぞ」と笑って言った。
私は籠を持ったまま皇憐の隣に腰掛けると、そっと顔を覗き込んだ。笑顔だが、なんだか…。
「……1度弱み見せちまうとダメだな。」
皇憐は吐き捨てるように言いながら苦笑すると、再びボンヤリと火を見つめた。
「あの頃みたいになるくらいなら、俺は永遠に人柱のままでいい。」
「え…?」
「もうあんな怨念騒動はごめんだ。」
「皇憐…。」
「秀明の奴はどこで何やってんだ、ったく…。」
「…きっと、間に合う。何か理由があるんだよ。」
「分かってっけど…。封印の仕組みは覚えてるか?」
私は頷いた。主に外から秀明の霊力、中から皇憐の妖力で怨念を抑え込む。
「もう秀明の霊力がかなり弱まってきてる。まだ猶予はあるが、余裕ぶっこいられる程じゃねぇ。」
「そう…。」
私にも霊力があればよかったのに。
桜琳だった頃から何度そう思ったことだろう。何もできない、この歯痒さ。
「結が仔鹿に手合わせてんの見たら、捌きにくくなっちまった。」
「ご、ごめん…!」
「いや。…人も動物も、子ども相手ってのはやり難いもんだな。」
「…そうだね。」
命の重みにこんなにしっかりと向き合ったことが今まであっただろうか。食べるということは、生きるということは、命をいただくということ。
『いただきます』という言葉の意味を、ここまで身をもって痛感する日が来ようとは。
私たちは鹿鍋を食べ終えると片付けをし、寝床のある鎌倉へと入った。
「なっ…!?」
私は中に入って絶句した。