龍は千年、桜の花を待ちわびる
「今日はもう遅い、今日はもう休んで出立(しゅったつ)は明日にすると良い。」


皇帝のその一声で、その場は解散になった。

私は客間へと通されると、夕食と風呂をいただいて、やっと床に()いた。


すでに先行き不安でしかない…。

この世界には電気がない。電気がないということは電化製品諸々も存在しないのだ。早速ドライヤーがなくて絶望した…。もちろん水道・ガスもなくて、いかに便利な環境で育ったかを痛感する。

唯一の救いは文化に大きな差がないということだ。

いただいた夕食はほぼ和食だったし、借りた寝巻きも浴衣のような形だし、そういった小さなところに安心感を覚えた。
しばらくこの世界で生活しなければいけないだろうから、文化の差があまり大きかったらキツかっただろうなぁ。適応しなければならないものが少し減っただけで、こんなにも安心できるとは。


(…皆、心配してるだろうなぁ…。)


お父さんもお母さんも、学校の皆も…。今頃捜索願いが出されて、ニュースにでもなってるんじゃないだろうか。
冷静になってから気付いたが、私は着の身着のままでこちらに召喚されていた。持っていたはずの鞄は恐らく道に放り出されているだろう。携帯も鞄の中だ。

……せっかくゲットした『皇憐-koren-』の最新巻も鞄の中だ…。読みたかった…。


私は布団をギュッと体に巻き付けながら溜め息を吐いた。

これからどうなるんだろう。『皇憐-koren-』の主人公は、憧れてた異世界に興奮して元の世界の心配なんてしなかった。その先の心配も…。


(私は心配で堪らないよ…。)


心配したところで仕方がないと分かってはいても、どうしたって不安になってしまう。とはいえやはり疲れていたようで、いつの間にか眠ってしまっていた。
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