龍は千年、桜の花を待ちわびる
道の向こうからこちらへ馬で駆けてくる人影が見えたのは、まだ昼前のことだった。
遠目でも分かる。
『緑の人』……木通だ。
「木通…!!」
思わず叫ぶと、向こうもこちらに気付いていたようで、私の手元に一輪の花を落として応えてくれた。
馬を止めるとそのまま地面に降り、木通のもとへ駆け寄った。
「木通!」
木通は私の側で馬を止めると、サッと馬から飛び降り、私の目の前に立った。
元々娼婦だった木通は、その頃からの名残で1000年経った今も華やかな見た目をしていた。
「桜琳…。本当にアンタ…。」
木通は信じられないとでも言うかのように、私をマジマジと見つめた。
「あ、今は『結』って言う名前で…! っていや、そんなことどうでもよくて! 急いで戻らないといけないの…! とにかくこんなに早く会えてよかった…!」
パニックになっている私を、木通はおもむろに抱き締めた。豊満な胸に顔が埋まって少し苦しい。
「なんだっていいさね。もう2度と会えないと思ってたんだ…。アタシ、長生きでよかったって初めて思えたよ…。」
少し体を離して再度私の顔をジッと見つめた後、目に涙を溜めて微笑んだ。赤い口紅が妖艶で、そんな微笑みに色気を感じてしまう。
「話は空から聞いてるよ。琵琶も持って来た。再会をゆっくり喜びたいところだけど、早く宮殿へ向かおうじゃないか。ね、結!」
そう笑顔で言って踵を返すと、木通は自分が乗っていた馬に跨った。
「うん…!」
私も我に返って、急いで馬に乗った。
こうして私たちは来た道を全速力で戻った。馬には負担をかけて申し訳ないが、そうも言っていられない。
(…何だか不思議。)
桜琳だった頃は、私が皆を助け支える側だった。笑顔で送り出し、笑顔で出迎える。時には励まし、時には寄り添う。
それが今ではまるっきり逆だ。私が皆に支えられ、さらに鼓舞までされている。
時の流れを感じるとともに、不謹慎にも皆の成長を嬉しく思ってしまう自分がいた。
(こうして支えてくれる皆がいるから、私は今、踏ん張れるんだ。)
「水凪、木通。ありがとう。」
そう言うと、水凪は肩をすくめ、木通は何でもないと言うように笑った。
遠目でも分かる。
『緑の人』……木通だ。
「木通…!!」
思わず叫ぶと、向こうもこちらに気付いていたようで、私の手元に一輪の花を落として応えてくれた。
馬を止めるとそのまま地面に降り、木通のもとへ駆け寄った。
「木通!」
木通は私の側で馬を止めると、サッと馬から飛び降り、私の目の前に立った。
元々娼婦だった木通は、その頃からの名残で1000年経った今も華やかな見た目をしていた。
「桜琳…。本当にアンタ…。」
木通は信じられないとでも言うかのように、私をマジマジと見つめた。
「あ、今は『結』って言う名前で…! っていや、そんなことどうでもよくて! 急いで戻らないといけないの…! とにかくこんなに早く会えてよかった…!」
パニックになっている私を、木通はおもむろに抱き締めた。豊満な胸に顔が埋まって少し苦しい。
「なんだっていいさね。もう2度と会えないと思ってたんだ…。アタシ、長生きでよかったって初めて思えたよ…。」
少し体を離して再度私の顔をジッと見つめた後、目に涙を溜めて微笑んだ。赤い口紅が妖艶で、そんな微笑みに色気を感じてしまう。
「話は空から聞いてるよ。琵琶も持って来た。再会をゆっくり喜びたいところだけど、早く宮殿へ向かおうじゃないか。ね、結!」
そう笑顔で言って踵を返すと、木通は自分が乗っていた馬に跨った。
「うん…!」
私も我に返って、急いで馬に乗った。
こうして私たちは来た道を全速力で戻った。馬には負担をかけて申し訳ないが、そうも言っていられない。
(…何だか不思議。)
桜琳だった頃は、私が皆を助け支える側だった。笑顔で送り出し、笑顔で出迎える。時には励まし、時には寄り添う。
それが今ではまるっきり逆だ。私が皆に支えられ、さらに鼓舞までされている。
時の流れを感じるとともに、不謹慎にも皆の成長を嬉しく思ってしまう自分がいた。
(こうして支えてくれる皆がいるから、私は今、踏ん張れるんだ。)
「水凪、木通。ありがとう。」
そう言うと、水凪は肩をすくめ、木通は何でもないと言うように笑った。