龍は千年、桜の花を待ちわびる
私たちが宮殿に帰り着いたのは、まだ昼を少し過ぎた頃だった。

木通と合流した場所はかなり首都寄りだったんだろう、空や何より木通の迅速な行動に感謝しかない。


私たちは兵に馬を預けると、そのまま祭壇へと向かった。

祭壇に近付くと、空が居ることに気が付いた。


「空!」
「結…。水凪、木通も…。」


そしてそのまま近付くうち、空の隣で震える男性が居ることにやっと気が付いた。


「そちらは…?」
「宮中で唯一霊力ある人…。」
「そう…。」


男性に視線を移すと、男性は顔面蒼白で、目に涙を溜めて震えていた。


「わ、私には無理です…!」


空が唯一霊力を持つというこの男性に、再封印か成仏の依頼でもしたのだろう。

取り乱す男性を見て、少し気の毒になった。


彼の反応はもっともだ。

先日の話の通りなら、彩雲にも遠く及ばない霊力しか持っていない彼には荷が重すぎる。儀式が失敗したときのことを考えれば、保身を抜きにしても役を引き受けはしないだろう。


「…とりあえず、皆、位置に着いて。」


私がそう言うと、空、水凪、木通は頷いて位置に着いた。金言と焔はすでに位置に着いていた。


祭壇の上を見上げれば、あの日のように封印の箱が置かれている。そして階段下には燃え盛る炎。


(…本当に、あの日のよう。)


私は転生の術をかけられた際に、秀明の霊力をこの身に受けている。もし少しでも残存していたら、私に、できないだろうか。


「……。」


やり方も分からない。祝詞(のりと)も知らない。……霊力だって、ないに決まっている。


(けれど、あんな風に怯える彼に責任を負わせるくらいなら…。)


そこまで考えて、私は歯を食いしばって俯いた。

…馬鹿だ。できないに決まってる。責任だって、どうやって取るというのだ。霊力も持たず皇后ですらない私が、この国のために…皇憐のために、何ができるというのだ。


「……。」


(…仮にもし、できたとして。再封印を、私がするの…? また皇憐を、あの孤独の中へ…?)


もはやどうしていいか分からず呆然としていたその瞬間、背後で強い光が放たれた。


そして、懐かしいゆったりとした声が聞こえた。


「ギリギリ間に合った、かな?」
< 83 / 131 >

この作品をシェア

pagetop