龍は千年、桜の花を待ちわびる
翌朝目を覚ますと、着ていた制服に着替え、朝食をいただいた。顔を洗い、さてどうしようかと思っていたところに訪ねて来た人がいた。


「お前…、その格好で行くのか?」


勝手に扉を開けておきながら、皇憐は開口一番にそう言った。


「え…。」


私の知っている漫画やアニメでは、制服で旅立つキャラが圧倒的に多い。私もそれに(なら)おうと思ったのだが…。


「結婚前の女がそんなに足を出して…。」
「は、はしたないってこと…?」
「俺は全然ありだが…。」


そこは別に聞いてないし聞きたくなかったような…。


「それより、だ。真面目な話、今この桜和国は秋で、もうすぐ冬がくる。北の地の冬は極寒だから、そうなる前にまず北へ向かおうと思ってんだが…、すでにかなり冷え込んでいるはずだ。その格好じゃ凍え死ぬぞ。」


そう言われて、そういうことかと理解した。すぐに私の世話を担当してくれている女官に話をして、この国の服を借りた。


「お前、自分の荷物は何かあるか?」
「ううん、何もない。今着てる制服だけ。」
「じゃあ荷物の用意はもうできてるから、着替えたら来いよ!」
「え! わ、分かった。」


皇憐は少し微笑んだ後、部屋を出て行った。いつの間に準備が終わっていたんだろう…。何をどう準備していいか分からなかったので、非常にありがたい。

私は急いで着替えると、女官に制服を預けて外へ出た。


外へ出ると、皇憐はすぐに見つけられた。足元に大きな包みが2つある。私の分と皇憐の分だろうか。

皇憐はこちらに気が付くと、うんうんと頷いた。


「その格好なら大丈夫そうだな。」
「まだここでは暑いけどね。」
「上着は寒くなってきたら着りゃいい。さてっと!」


皇憐は足元に置いてあった荷物を全て持つと、私の方を振り返った。


「皇帝と空に声掛けたら行くか。」
「う、うん!」


皇帝に声を掛けに行くと、皇后も空も一緒に居た。


「おぉ、行くのか。」
「おう!」
「結さん、体に気を付けるのですよ。」
「ありがとうございます。」


そう声を掛けてもらって、両親のことが頭をよぎった。


(今は、気にしてもしょうがない。)


もしここでの私の使命があるのなら、早くその使命を果たそう。そうすれば、帰れるはずだから…。


「いってらっしゃい…、皇憐…。」
「おう!」


空は昨日のように皇憐の足元に抱き付いた。皇憐も昨日のように空の頭を撫でる。


「結も…。」


空はこちらを振り返ると、今度は私の足元にも抱き付いてきた。しゃがんで目線を合わせると、そのまま首に腕を回して抱き付いてきた。


「えへへ。いってきます、空。」


背を摩ると、空は腕を離して少し笑った。


「おし、行くか!」
「うん。」


私たちは皇帝・皇后・空に見送られ、街へと踏み出した。
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