龍は千年、桜の花を待ちわびる
俺は眩い成仏の光の中で、走馬灯のように封印された当初を思い出していた。
暗闇。
立っているのか、浮いているのかさえ分からない。元々飛べた俺は、そこに然程違和感を感じることはなかった。
けれど光の欠片すらないこの空間には、少しばかり怯みそうになる。
何より、『厄介すぎるもの』が俺を取り囲んでいる。
「忌々しい…!! 皇憐! 秀明! 儂の国を滅ぼしたあの男も…!!!」
「なんだ、大量の怨念が封じられてんのに人格は1人分か?」
「黙れ龍! 儂が生きておればその喉掻き切ってくれるものを…!!」
「止めとけ、俺は不老不死だ。そんなんじゃ死なねぇよ。」
そう返すと、怨念……もといジジイは悔しそうに唸り声を上げた。
けれどジジイは懲りることなく、毎日俺に怨みを向け続けた。常人なら気が狂って、そのままコイツらに取り込まれていただろう。
それからどれ程の月日が経ったのか分からない。まだ数日だろうか。それとも数年だろうか。
そんな頃に、桜琳がやって来た。
アイツは俺を恋しがるでもなく、ただ国のことを願い、民のことを願い、まるで日記のようにその日の出来事を話すばかりで、弱音を吐いたりすることは1度もなかった。
『結婚の日取りが決まったの。』
「そうか。秀明と仲良くやれよ。」
『無事に式典が終わったわ。これが衣装。素敵でしょう?』
「見えねぇよ、馬鹿。…でもきっと、この世で1番綺麗なんだろうな。」
『子を授かったの。無事に産まれてくるよう、祈っていてね。』
「あぁ、当たり前だ。子どもだけじゃない、お前も無事であるよう、祈っててやる。」
『無事に産まれたの。どうか、この子を守って。この子だけじゃない、国中の子を…守って。』
「仕方ねぇな。…お前の頼みじゃ、断れねぇよ。」
悔しかった。
桜琳の隣に居るのが俺じゃないことが。
けれど、それは自分で決めたことだ。
「貴様も怨念になれば強大な力を儂は得られる! さぁ、貴様を人柱としたあの小童を憎め! 怨め!」
「悔しいけど、憎いとか、怨めしいなんて気持ちは欠片もねぇ。桜琳が幸せなら、俺はそれでいい。」
(不思議なもんだ。)
笑いながらそう返すと、怨念はしばらく俺に話しかけてくることはなくなった。
俺は毎日祈った。桜琳の幸せを、子どもたちの幸せを、桜琳が愛する国の幸せを。
そうしてしばらく経った頃、秀明が転生の術をかけた。
『1000年後に会おうね、皆で。』
希望だった。
秀明はそれを『奇跡』と呼んだが、俺には『希望』だった。
桜琳に、また会える。どれ程の希望だったか、言葉では言い表し切れない。
それからしばらくして、数日間桜琳が廟を訪れない日が続いた。そして代わりに、秀明が子どもと一緒に来た。
『桜琳が、逝ったよ。』
「……そうか。」
『ちゃんと、皆で看取ったよ。』
「そうか…。」
悲しい。寂しい。苦しい。
自分の中に、人の死に対してこんな風に思う感情があったのかと自分でも驚く。
けれど秀明が与えてくれた希望のおかげで、俺はこの孤独に耐えられそうだ。
『桜琳の骨壷から少し拝借してきたから、祭壇に置いておくね。』
「は!? 余計なことすんじゃねぇ!」
『これで少しは寂しくないでしょう? …ずっと、桜琳と一緒だよ。』
「っ……。」
それから少しして、秀明も逝ったと2人の子どもが孫を連れて報告に来た。
暗闇。
立っているのか、浮いているのかさえ分からない。元々飛べた俺は、そこに然程違和感を感じることはなかった。
けれど光の欠片すらないこの空間には、少しばかり怯みそうになる。
何より、『厄介すぎるもの』が俺を取り囲んでいる。
「忌々しい…!! 皇憐! 秀明! 儂の国を滅ぼしたあの男も…!!!」
「なんだ、大量の怨念が封じられてんのに人格は1人分か?」
「黙れ龍! 儂が生きておればその喉掻き切ってくれるものを…!!」
「止めとけ、俺は不老不死だ。そんなんじゃ死なねぇよ。」
そう返すと、怨念……もといジジイは悔しそうに唸り声を上げた。
けれどジジイは懲りることなく、毎日俺に怨みを向け続けた。常人なら気が狂って、そのままコイツらに取り込まれていただろう。
それからどれ程の月日が経ったのか分からない。まだ数日だろうか。それとも数年だろうか。
そんな頃に、桜琳がやって来た。
アイツは俺を恋しがるでもなく、ただ国のことを願い、民のことを願い、まるで日記のようにその日の出来事を話すばかりで、弱音を吐いたりすることは1度もなかった。
『結婚の日取りが決まったの。』
「そうか。秀明と仲良くやれよ。」
『無事に式典が終わったわ。これが衣装。素敵でしょう?』
「見えねぇよ、馬鹿。…でもきっと、この世で1番綺麗なんだろうな。」
『子を授かったの。無事に産まれてくるよう、祈っていてね。』
「あぁ、当たり前だ。子どもだけじゃない、お前も無事であるよう、祈っててやる。」
『無事に産まれたの。どうか、この子を守って。この子だけじゃない、国中の子を…守って。』
「仕方ねぇな。…お前の頼みじゃ、断れねぇよ。」
悔しかった。
桜琳の隣に居るのが俺じゃないことが。
けれど、それは自分で決めたことだ。
「貴様も怨念になれば強大な力を儂は得られる! さぁ、貴様を人柱としたあの小童を憎め! 怨め!」
「悔しいけど、憎いとか、怨めしいなんて気持ちは欠片もねぇ。桜琳が幸せなら、俺はそれでいい。」
(不思議なもんだ。)
笑いながらそう返すと、怨念はしばらく俺に話しかけてくることはなくなった。
俺は毎日祈った。桜琳の幸せを、子どもたちの幸せを、桜琳が愛する国の幸せを。
そうしてしばらく経った頃、秀明が転生の術をかけた。
『1000年後に会おうね、皆で。』
希望だった。
秀明はそれを『奇跡』と呼んだが、俺には『希望』だった。
桜琳に、また会える。どれ程の希望だったか、言葉では言い表し切れない。
それからしばらくして、数日間桜琳が廟を訪れない日が続いた。そして代わりに、秀明が子どもと一緒に来た。
『桜琳が、逝ったよ。』
「……そうか。」
『ちゃんと、皆で看取ったよ。』
「そうか…。」
悲しい。寂しい。苦しい。
自分の中に、人の死に対してこんな風に思う感情があったのかと自分でも驚く。
けれど秀明が与えてくれた希望のおかげで、俺はこの孤独に耐えられそうだ。
『桜琳の骨壷から少し拝借してきたから、祭壇に置いておくね。』
「は!? 余計なことすんじゃねぇ!」
『これで少しは寂しくないでしょう? …ずっと、桜琳と一緒だよ。』
「っ……。」
それから少しして、秀明も逝ったと2人の子どもが孫を連れて報告に来た。