龍は千年、桜の花を待ちわびる
そうして何十年何百年と、秀明と桜琳の子孫が毎日俺の所へやって来ては、その日あったことを話したり話さなかったり。

生意気な奴もいれば、宗教染みてて少し心配な奴もいた。


ただ全員、最後には毎日必ず、国の平和を願って廟を出て行った。


「なぁ、ジジイ。」


封印されてからどれくらい経った頃だったろうか。少なくとも、桜琳と秀明が逝った後だ。


「お前しか怨念はいねぇのか? それとも、お前が代表なのか?」
「……暇つぶしじゃ、仕方がない。儂らは数百数千の怨念の塊。中でも怨みが最も強い儂が表に出ておるだけじゃ。皆遺志は持っとる。」
「そうか。俺も『祈りの時間』以外は暇なんだ。1人ずつ俺の話し相手になってくれよ。どうせ、封印破るの無理だってもう分かってんだろ?」


そうして俺は、気の遠くなるような長い時間をかけて、1人1人と対話を行なっていった。話を聞いて、そうかと受け入れてやる。

それしかできなかったが、コイツらの心が少しでも救われればいいと思った。


この、俺が。


気付けば時は流れ、封印に綻びが生じ始めた。

奴らは嬉々として飛び出して行った。もちろん戻って来ることはなかったが、なぜかジジイに情報は集約されているようだった。


そして、俺の妖力も少しずつ漏れ出るようになってしまった。

せっかくなので、漏れ出た妖気を少し飛ばして国中を見て回った。すると、3人で額を寄せ合っていたあの頃理想としていた国が、そこには広がっていた。


嬉しかった。

わずかでも外界と接触を持てたことももちろんそうなのだろうが、何より、目指していたものがそこにあった。その事実が、嬉しかった。


そして漏れ出た妖気で人型を取れるまでになった頃、“彼女”の召喚が()された。


俺のことを覚えていなくても良い。桜琳にまた会える。俺は秀明が逝く前に告げた通り、桜琳に会うために謁見の間へと向かった。


『皇憐。君が漏れ出た妖気で人型を取れるようになる頃に、桜琳がこちらの世界に召喚される。そうしたら、“彼女”に会いに行って。空に儀式の前に声を掛けるよう言っておくけど、召喚されたらきっと気付くよね?』


信じられないくらい緊張して、同時に高揚した。

そうして謁見の間へと足を踏み入れると、そこには桜琳と瓜二つの『結』が居た。


最初の一言を放つのに、上手く平然を装えたかはあまり覚えていない。

そのくらいには、浮き足立っていたのだから。
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