佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋
「初々しくて、素敵なカップルだわって思って見てしまったの。ごめんなさいね」
「俺達も、そんな時期があったな」
「あら、今も昔も変わらず仲良くしているでしょう」
「そうだな」
そこへコック服の男性が隣の建物から顔を出す。
「親父、お袋、店手伝ってよ」
「あーぁ、あいつは、いつまで俺達をこき使うつもりなんだ」
「あら、いいじゃない。あなたの後を継いで頑張ってくれてるんだから、手伝ってあげましょう」
2人は嬉しそうに笑い立ち上がる。
「そこのおふたりさん。機会があったら食べにいらっしゃい。サービスするわ」
「息子の料理はどれも美味しいと味は保証するよ」
息子さんの為にお店の宣伝も忘れない、素敵な夫婦に、しおりは笑顔で頷く。
「はい、食べに伺います」
そして、【ff】フォルティシモの看板の奥にある勝手口へ入って行った。
「帰りに、よろうな」
「うん」
嬉しそうに笑うしおりに、零士は甘く微笑む。
物欲のないしおりが、食い物にだけ貪欲になるのだ。
零士の中で膨らむこの感情は、言葉で表せない。
もう、ただ…この可愛い表情を見る為ならお金を惜しみなく出せる。
例え、それが物欲だったとしても。
「よし、公園まで行くか」
「よし、頑張って歩くぞ」
「あははは…そういうしおりだから、好きだよ」