佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋

「初々しくて、素敵なカップルだわって思って見てしまったの。ごめんなさいね」

「俺達も、そんな時期があったな」

「あら、今も昔も変わらず仲良くしているでしょう」

「そうだな」

そこへコック服の男性が隣の建物から顔を出す。

「親父、お袋、店手伝ってよ」

「あーぁ、あいつは、いつまで俺達をこき使うつもりなんだ」

「あら、いいじゃない。あなたの後を継いで頑張ってくれてるんだから、手伝ってあげましょう」

2人は嬉しそうに笑い立ち上がる。

「そこのおふたりさん。機会があったら食べにいらっしゃい。サービスするわ」

「息子の料理はどれも美味しいと味は保証するよ」

息子さんの為にお店の宣伝も忘れない、素敵な夫婦に、しおりは笑顔で頷く。

「はい、食べに伺います」

そして、【ff】フォルティシモの看板の奥にある勝手口へ入って行った。

「帰りに、よろうな」

「うん」

嬉しそうに笑うしおりに、零士は甘く微笑む。

物欲のないしおりが、食い物にだけ貪欲になるのだ。

零士の中で膨らむこの感情は、言葉で表せない。

もう、ただ…この可愛い表情を見る為ならお金を惜しみなく出せる。

例え、それが物欲だったとしても。

「よし、公園まで行くか」

「よし、頑張って歩くぞ」

「あははは…そういうしおりだから、好きだよ」
< 133 / 182 >

この作品をシェア

pagetop