佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋

しみじみと年取った兄弟は頷くのだった。

過去の自分達を思い出して…
「ただいま」

玄関先まで駆け寄り、靴も脱いでいない零士に抱きつくしおり。

「えへへ、おかえりなさい」

玄関の段差があるおかげで、顔の距離が近く、照れ笑いをする彼女の表情の可愛いさのあまり抱きつき返す零士。

「もう、なんなの。可愛い事するなよ。…襲っちゃうぞ」

抱きつきながら歩きだした零士は、ネクタイを緩め首もとから抜き取るのだが、零士の勢いで後ろ歩きしていたしおりは、そのネクタイを奪い、零士の両手首を輪の中に手を入れて、拘束する。

しおりが口を尖らせて拗ねているので、零士は、更に拘束されできた腕の輪を彼女の頭の上から下ろし、閉じ込めて揶揄う。

「拘束プレイ?」

「違います。…香水臭い」

零士の使うフレグランスが消えるほどの強い匂いが、胸の奥をザワザワとさせるのだ。

いろいろな匂いがしていた会場にいすぎて、匂いに鈍くなっていた零士は、しおりの拘束を解き、手首のネクタイも簡単に解いて、服についた匂いを嗅ぐ。

「えっ、わからないな…臭い?シャワー浴びてくるよ」

いまだに、不機嫌で、でも悲しそうな表情のしおりを前にして、零士の心に嬉しさが沸いてくる。
< 146 / 182 >

この作品をシェア

pagetop