佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋

だから、あえてしおりを会話に入れず放置する時間を作ったのだ。

そして、しおりが気がついた時は遅く、男はカウンターを立ち会計を済ませていた。

この時点でしおりが気がついていなければ、わざとらしく、視線を向けさせればいいだけだと腹黒く思っていたのだ。

気がついたしおりが、携帯を持っていったということは、男に連絡する為だろうと、しおりの背中を見つめる。

そして、戻ってきたしおりの表情は、無理して笑っているのが見え見えだった。

2人の間に歪みができればと願っていた零士だが、こんな表情を見たかったわけじゃない。

自分になのか、辰巳になのかわからない腹立たしさが零士の中でおこっていた。

目の前の2人は、零士としおりの変化に気がつかないほど、お互いの会話に夢中でいる。

「加賀さんのご実家の近くにスキー場と温泉旅館があるんですって。今度、雪が積もったら、スキーに行きましょうって話してるんですけど、しおりさん達も一緒に行きましょうよ」

「無理無理。スキーできないわ」

「えーダメですか?じゃあ、雪景色の素敵な温泉に行きましょうよ」

「繁忙期入るのに、2人して何日も休み取れる訳ないでしょ。2人でどうぞ」

「みんなで行ったほうが、楽しいですよ。ねぇ、加賀さん」
< 37 / 182 >

この作品をシェア

pagetop