佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋

そのまま、2人は、無言でマンションまで歩いていく。

零士の腹黒さに少しも気がつかないで。

本気の言葉の中に、腹黒さを混ぜ、しおりの方から男に連絡させるよう仕向けられていたと気がつかないだろう。

零士の狙いでは、8割の確率で、2人の間に、ひび割れを起こすぐらいできるだろうとふんでいる。

あわよくば、しおりが振られれば一番いいとさえ思っている。

深い傷に優しさと甘やかしを、どっぷりと塗りたくり、くっついて離れられなくなるまで零士に溺れてほしいのだ。

零士は、あえて言わなかったが、しおりは、気づいているのだろうか?

途中から、零士の前で素の話し方になっていることに…

一方のしおりは、零士の言葉が脳裏にいつまでもこびりついていた。

『確かめてもいないことを勘ぐって悩むな。悩むぐらいならぶつかってみろ』

悩んでいても答えは出ないと、辰巳に確かめようと決意するのだ。

そう思えるのは、隣の男の優しさが、しおりに勇気をくれたと思うからで、うじうじと悩み続けるより、ぶつかって初めてのケンカぐらいしようと脳裏をよぎったのだが…

(私、辰巳さんとケンカを一度もしたことないんだ)

恋人なのに、いつも、一歩ひいて付き合っていたことを知るのだ。
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