佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋
「つけたら、怒るよ」
「わかってる。まだつけないよ」
熱を孕んだ目で肌をなぞる視線にたえるしおりの姿に、気をよくして耳裏の匂いを嗅ぐ零士の吐息に、ぴくりと反応するしおり。
あぁ…この耳にむしゃぶりつきたいと欲望が湧き起こり、さりげなく唇でなぞるだけにとどめる零士だったが…
「…」
「なに?」
「耳、弱いから…」
可愛らしく反応するしおりだった。
「えっ、嫌だった?なら、もっと抵抗しないとな」
上機嫌で、膝からしおりをおろし、皿を片付けて洗いだした。
抵抗できなかった自分が悔しくて、嫌じゃなかったのも見透かされてて、恥ずかしいやらで、逃げだしたくなり、立ち上がった。
「…帰る」
「えっ、もう⁈」
慌てて手の泡を流してやってきた零士の横を通り過ぎて、玄関へ。
「お、や、す、み」
顔を赤くして、怒った声で零士を見上げるしおりに、苦笑する零士。
「また、明日な。おやすみ」
勢いよく出て行ったしおりは、隣の自分のドアを勢いよく閉めた。
「今日は、ここまでか」
嫌われない程度に意識させることは成功したようで、口元に笑みを浮かべるのだった。
その頃、隣の部屋のしおりは、辰巳の前では、絶対に、こんなふうに感情をさらけ出すことなどできなかったと比べるのだった。