佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋

「親切心で、助けてくださったんですよ」

「親切心ね…」

「辰巳さん、ご飯まだでしょう?」

「あぁ…」

「たくさん買い物してきたので、辰巳さんの食べたいお料理作ります。何、食べたいですか?」

辰巳の腕に腕を絡ませて、引っ張って歩くしおりに、辰巳は、小さな嫉妬を隠した。

「肉じゃががいいな」

「ふふふ、任せてください」

2人は、マンション内へと入っていく。

男は、階段の影で、2人がエレベーターに乗るのを確認して、複雑な心のまま、どこかに電話をかけた。

「俺、今からそっちへ行く」

電話の相手の声が嬉しそうにしているが、男にとって耳障りでしかない。ただ、手近で男の熱を発散できる相手だからだった。

なぜだが今日は、しおりと彼氏がいる隣の部屋に帰りたくないと思った。

きた道を歩いて戻り、ふと、マンションを振り返る。

「しおり…」

呟いた声は、切なく甘い。

この訳の分からない感情のまま、男は、別の女の元へ向かった。

その頃、しおりはキッチンに立ち、辰巳の為に腕をふるう。

豚肉の肉じゃが、鮭ときのこのホイル焼き、青菜のおひたし、具沢山のお味噌汁をテーブルに並べる。

「おっ、うまそう。料理上手な彼女を持って幸せだよ」
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