佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋

「ほら、しおり、あの店試食してる。温泉饅頭食べたいだろ」

蒸籠で蒸した熱々の湯気と共に、いい匂いが漂って人々を誘っている。

もちろん、その誘惑に勝てるしおりではなく、目を輝かせ零士を見上げる。

「やっと、目を合わせた」

嬉しそうに笑う零士だが、どこか寂しさを残していた。

「ごめん。わざとじゃないよ」

「わかってる。ほら、試食しよう」

しおりの頭を撫で、店へ向かうのだ。

「あら、イケメンさん。可愛い彼女に買ってあげなさいよ」

試食させてもらうしおりの横で、零士は、店のおばちゃんに揶揄われ、苦笑いを浮かべる様子をしおりは見ていた。

「零士、口あけて」

はぁっ?と思いながらも言われるまま口を開けた零士の口の中に、しおりが食べていた半分を
口の中に入れる。

「あつっ‥、うまいな」

「でしょ!買って」

一瞬、固まる零士だったが、なぜかご機嫌になり、8個入りの菓子箱を購入。

「ありがとうよ。お兄ちゃん。彼女さんは、彼氏を上手く手懐けているね。それがうまくいく秘訣だよ。また、来年も待ってるよ」

おまけと称して、味の違う熱々の饅頭を2個紙に挟んでくれたのだ。

「ありがとうございます」
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