佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋

「あなたこそ、私を侮辱するのはやめてほしいわ。じゃあ、失礼します」

意味深な言葉を残していなくなってから、零士は代わりに謝るのだ。

「…ごめん。嫌な思いしたよな」

「ううん、大丈夫。でも、あの人、よかったの?」

「なにが?」

「零士のこと好きみたいだけど」

初めて零士の女性関係に出会い、さぐりを入れてしまう自分に気づき、誰にも渡したくないと…

「だから、なに?俺が好きなのはしおりだよ。まだ、わからないの?俺の何がダメ?」

「ちゃんと伝わってる。ダメじゃないよ。ただ…」

「ただ?」

「いつか、私のことを零士も重いって思うかもしれない。そして振られたら…そう思うと怖いの。信じたいのに不安なの」

髪を苛立ちげに掻きむしる零士は、呪縛をかけた男を腹立たしく思うのだ。

しおりは、手首を掴んで先を歩く零士の苛立ちを肌で感じ、言葉をかけることを躊躇っていた。

なにが、零士の怒りに触れたのかわからないのだ。

宿にもどり部屋に入るなり、零士に抱きしめられ唇を奪われ、壁に背がぶつかる。

頭だけは、零士の手のひらが防いでくれたようで、痛みを感じることはなかったのだが、その代わりに、唇に痛みが走っていた。
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