今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
この世界の医師は治癒魔法の使い手で、治癒師と呼ばれる。アンの推しも治癒師だ。アンの顔を一目見て、眉根を寄せる治癒師たちはアンの頬に触れて観察した後、みんな首を横に振る。
「これは……すでに肌が完治となっているのでここから肌の細胞を活性化したとしても」
「簡単に言え」
ミカエルの不機嫌な声が響く。椅子に座って足を組んで、アンが治癒師に診察されるのを隣でガン見していたミカエルが低い声を出す。
とてもお子様とは思えない威圧感だ。
ミカエルはまだ幼いながら魔法の申し子と呼ばれるほどの才能の持ち主であり、言葉に魔力が乗れば大人より重い圧がかかる。
(あー魔力の圧が重い重い重いイタイイタイ)
アンも威嚇する魔力圧にさらされて重い気分になる。アンも悪役令嬢スペックとして魔法の才能は高い方だ。
あまり魔法が得意でないものがこの魔力圧に晒されたら、卒倒してしまうくらいの圧だ。
本日招かれたもう齢50過ぎの治癒師はゴクリと息を飲んだ。卒倒しないだけ、治癒師が実力者なのがわかる。
治癒師はしぶしぶ口を開いた。黙っていたら潰されそうだ。
「アン嬢の傷は治せません」
「お前のような無能には、無理なんだろうな」
冷たい言葉と圧に、首を一瞬で刃物ではね飛ばされたような感覚を受けた治癒師は青ざめた顔で部屋を辞した。
(またこれだよ、俺様ちびっ子め)