今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
「ミカエル殿下、アンちゃんを探してたみたいだけど」
「いいのよ。ママ、私しばらく学校は休むわ」
「そうなの?ケンカ?」
アンの頭をよしよし撫でて、母親は優しく笑った。アンはミカエルなんていない方が、優しい両親と一緒に、この世界で安穏に生きていける。
悪役令嬢アンの人生の安穏を乱すミカエルなんて、邪魔だ。いらない。いらない。
「あ、アンちゃん?」
母親に抱き締められて、アンは悪役令嬢に生まれた運命に初めて泣いた。
ミカエルとヘレナの恋を阻んで断罪されたくない。
ストーリーを盛り上げるためにだけに必要な悪役令嬢、邪魔者役なんてやりたくない。
そんな運命に乗っかってなんてやるものか。
(悪役令嬢アンの運命なんて変えてやるって思ってたのに)
紅の猫目からあふれる涙は止まらなかった。
(結局、今ここにいる悪役令嬢アンは、原作乙女ゲーム通りに……ミカエルが大好きでたまらないなんて、皮肉過ぎる)
ストーリーの強制力が強くて痛い。アンは母親の胸で嘆いた。