今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
引きこもり中のアンは自室でミカエルが留学中に贈ってきた石をじっと眺めていた。
妙に方角にこだわって置かされている石だ。ずっとアンの自室に鎮座して、ミカエルの指示により、よく拭かされている。
(この石、片づけるべきかな……)
考えつつも、毎日素通りしていた。
アンはこの石に四方を囲まれた部屋で静かに過ごしている。もう乙女ゲーストーリーが終わる春のパーティまでここから出ない。それが安全策だ。
ジェイドがミカエルに横恋慕されて、苦渋しつつも大人として身を引く泣き必至イベントを見られないのは不甲斐ない。
だが、生きてこその推し事だ。
生きていればまたジェイドの笑顔は見られる。