今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
毎日毎日、ミカエルは夜になると返事のないアンに呼びかけた。懇願する切なげな声にアンの下腹が疼くが、アンは聞こえないふりをした。
ヘレナとキスする関係で、どういうつもりでそんなことを言えるのか。横恋慕の達人ではなく、ただの浮気の達人だったのだろうか。考えるのも嫌だ。
もう傷つきたくない。
アンは右頬のでこぼこを手で押さえた。
もうこれ以上、傷は欲しくない。
アンが毎日ミカエルの声を無視し続けているうちに、春のパーティが迫っていた。
このまま乙女ゲー本編の終わりまで逃げおおせるつもりだったアンに、ミカエルから一通の手紙が届いた。
(ミカエルって指輪通信ばっかりしてきたから。手紙って……意外と初めて)