今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
婚約しないまま乙女ゲーを迎えたならば、アンに断罪の芽は全くない。
心のガッツポーズが止まらないアンは、ミカエルのお手てに別れ粘着キスをスルーした。
「行って来る」
「いってらっしゃい!ってこら待てぇ!なんだこれ!!」
意気揚々と持ち上げたアンの右手の小指には、真っ赤なルージュが入った指輪がはまっていた。悪役令嬢の高スペックで、魔法の才のあるアンにはすぐにわかった。
「この指輪絶対取れないやつでしょ!」
「バレた?俺が帰って許可するまで取れないから。アンは俺のって証拠な」
「魔法の指輪じゃないよ?!これはもうもはや呪いの指輪だよ?!」
「ハハッ!アンの言うことはいつも面白いな。そういうところ好きだぞ」
「なんで私の本気の抗議をいつも笑って流しちゃうかな?!」
とてもご機嫌のミカエルは碧眼に明るい光を宿して、アンの右頬に軽やかな別れのキスを残してマントを翻して馬車に乗った。
(ミカエルが魔法かけた指輪だったら、絶対取れないよ!悪役令嬢アンの魔法スペックそこそこ高いけど、ミカエルには敵わないくっそぉお!)
アンは半泣きになりながら、ミカエルの乗った馬車を恨みがましく見上げた。
ミカエルは馬車の窓から外を覗いて、アンの半泣き顔を眺めた。
(やっぱり俺がいないと寂しいんだな。素直に言えばいいのにツンツンして……可愛いったらないな)