今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
ミカエルが遠くの魔法大国に留学して半年がたち、アンはすっかり平和な日常を得ていた。
夜寝る前に指輪の向こうのミカエルから「今日の報告をしろ」と通信命令されるので、ベッドで寝転がりながらアンが三食何を食べたか無機質に話す。
そのあとミカエルから今日は誰と会ったか全部言えと言われて全部言う。
という謎の使命をこなすことだけが日常の苦痛だ。
だが物理的距離の効果は素晴らしく、ミカエルは顔を見せない。
それだけで断罪死刑ルートからの距離も遠く感じて、アンは清々しかった。
調べたところ、この世界には長距離ぶっ飛び魔法という、いきなり長距離を瞬間移動してしまう恐ろしい魔法があるという。
だが、何してるのか知らないが忙しいらしいミカエルは、瞬間移動の習得に時間を割く気はないらしい。努力の矛先がそこに向かないように祈るばかりだ。
指輪は外れず、顔は醜く、アンに次の縁談が来ることはなかった。
だがそれすらもアンには自由で嬉しくて、楽しくて、やっとこの魔法がある異世界での暮らしを謳歌し始めていた。