今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
アンは頭を抱えて振り乱し、鏡の前で美少女あるまじき動きで悩み続けたあと、ある一冊の本を手に取った。オタクは状況把握が強い。
魔法家庭教師から借りた一冊の本をぱらぱらめくり、あるページを開く。
『魔王直伝!強烈な呪い魔法アレコレ』
熟練の魔法使いでもうっかりミスしたら永遠に解けない高度な呪い魔法が記されている。アンは本文をさらっと眺めて息を飲む。
「私にできる?」
魔法家庭教師の指導の元、魔法を理解し始めたアンにはこの魔法が特別に高度であることがわかった。だが、ミカエルほどの魔法の実力者が努力を重ねている現状において、アンも逃げ切るために努力すべきだ。
「やってやろうじゃないの。この高スペック悪役令嬢アンに、やってやれないことはない!!」
婚約しないために!生き抜くために!推しを平穏に眺めるために!アンは決めた。
「私は私に、呪いをかける!」
自ら顔に火傷をつけ、アンは自らに呪いをかけると突っ走って行く。生き抜くための自傷行為が甚だしい。せっかくの生まれ持った美貌が泣けるというものだ。
「私はミカエルの思い通りにはならない!」
本当にそんな呪い魔法をかけるのかと訝しむ魔法家庭教師を金でねじ伏せて助力させ、アンは寝るとき以外自室とは別の魔法研究室に引きこもった。