今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
悪役令嬢、推し事開始です
(今日から推しと同じ敷地内の空気が吸えるなんて……!)
アンは魔法高等学校の制服に身を包んで、震えながら馬車を下りた。
金色の髪を靡かせて、完璧な立ち居振る舞いで馬車を優雅に下りようとするアンに手が差し伸べられる。
「手を」
アンが令嬢の嗜みとして差し出された手に手を重ねると、ぶ厚い男の手にぎゅっと強く支えられた。地面に足をつけて見上げればそこには、美貌の王太子、ミカエルが立っていた。
(うっっっっそ!!成長してる!大人になってる!え、ヤバ、かっこ良!ビジュ強い!)
「ビジュアルのスペック高すぎワロタ動けん神かこの野郎、顔が天才」を略してビジュ強いである。アンの紅の猫目がビジュ強の王太子をまじまじ見つめると、白髪碧眼の美に磨きをかけたミカエルが目を細めた。
(アンだ、本物の、俺のアン)
ミカエルは約5年ぶりに実物のアンを拝んで、胸が痛いくらいに高鳴っていた。魅惑のブロンドに、意思の強い紅の猫目に、変わらぬ爛れた頬。アンが楽しんで趣味として磨き上げた美貌に、ミカエルはあっさり魅了される。
少女だった彼女は女性へと丸みを帯びて成長して、磨き上げられた美貌に目がチカチカした。やはり、ミカエルの胸を高鳴らせるのはこの女だけだと痛感する。
「アン、綺麗になったな」